ずい

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『理想のあなた』

イケメンが泣いてる。

団体行動が苦手な私のお昼はいつも裏庭にあるベンチで。屋根があるところは人がいるから、あっちは雨の日限定だ。
裏庭の、大きな木を少し過ぎたところにイケメンは独りで立っていた。
面倒臭そうな空気を感じて一瞬戸惑ったのがいけなかった。手にしたビニール袋が揺れて、涙をこぼす彼と目が合ってしまった。

「一緒に食べる?」

漫画だったらパアアと効果音がつきそうな笑顔で返された。ついでにティッシュを貸したら、汚い鼻声でお礼を言われた。

「思ってたのと違うって言われて」
「あー、いるよね。理想ばっか高くなる人」
「それが五人くらい続いてるんだ」

色んな意味で早く逃げたい感じの昼になった。
彼の後ろでなんかめっちゃ眉間にしわ寄せたり口元ひん曲がったりしてる女子たちがいるんですけど。
撒いてこいよ。

「もー押しつける前に理想のあんたになってから出直してこいって言っちゃいなよ」

私はわりと初日に似たようなこと言って、やらかしてぼっちを極めたわけですけども。

イケメン君に視線を戻すとなぜか目を輝かせていた。
おもむろに両手を取られる。

「師匠とお呼びしても?」
「お断りします!」

断固拒否したにも関わらず、ぐっと力が入ったまま離れない手に静かな日常に別れを告げる。
さようなら理想的な学校生活。
こんにちは波乱の日々。

5/20/2024, 1:17:49 PM