ぬるい炭酸と無口な君
私はぬいぐるみ、人間からはくまごろうと呼ばれている。
私がこの家にやってきたのは5年前だったか。
シュッサンイワイ?とかいう習わしでこの家にやってきたのだ。
丁度その頃生まれた人間の子は、私をいたく気に入っている。
冷蔵庫からサイダーを持ってきて、
「くまさん、どーぞ」
コップに注いで差し出してきた。
私が受け取らないのでコップは傍に置かれた。
動けさえすれば、満面の笑みで受け取っているのに。
サイダーは陽が当たって、その冷たさを失っていく。
そんな砂糖水になりかけているものと私をじっと見ている人間の子。
視界からいなくなったと思うとクレヨンと紙を持って帰ってきた。
窓際の私と砂糖水を見ながら、紙にクレヨンを塗りつけている。
ほどなくして部屋に飾られたその絵にはコップと熊が描かれていた。
その熊は少し微笑んで見えた。
8/4/2025, 10:25:11 AM