夢で見た話

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じっくり腰を据えて、話すことにした。
もうそろそろ見ていられない。目の前の上司ときたら、ひらりと手を振って去って行った女(ひと)を見えなくなるまで目で追って溜息をついている。これで想いを認めないのだから、年頃の少女より女々しいというものだ。

『… 想ったところで仕方がないよ。』

私のようなのがあんな娘(こ)をさ、と言い訳がましく唇を尖らす様は、幼い頃とまるで変わらない。
確かに彼女をどう思うかは貴方の自由だ。だが、仮に…想像してみると良い。貴方の想いを彼女が嫌悪し、畏怖し、去って戻らないことがあるだろうか、と。

『やめてよ、』
『――。』

久しく聞かなかった少年時代の呼び名を聞いて上司は黙る。
私に引く気がないのが解ったのだろう。
怖がらずに、疑心を捨てて、己の本心と向き合え。さ、あの女(ひと)が、お前をどんな顔で見るのか言ってみろ。

『… わからない。』

頭の中で、ただ笑っている。白玉みたいな歯を見せて。
そう呟いて、男はまた溜息をついた。

… そら、解ったろう。お前は信じているんじゃないか。
誰をどれほど愛するかなど、決して自分では決められない。
だが、思いを遂げるための努力はできる。
さっさと腹を括りなさい、と言う私の言葉に、じとり、と険のある瞳が何とか言い返そうと見返してくる。

『説教臭いね。…歳なんじゃない?』

グズグズしていたら、貴方もあっという間に私の歳になりますよ。言うが早いかぴしゃり!と鼻先で襖が閉まった。
まったく、幾つになっても手の掛かる悪ガキめ。


【意味がないこと】

11/8/2023, 4:21:22 PM