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きれいな髪だと思った。
触ってみたいと思った。
もっと話してみたいと思った。
名前も知らない、ただ一目見ただけの他人にそんなふうに思ったのは初めてだった。
きれいな髪が揺れて、氷の様な冷たい瞳が僕を捉えた。
そして形の良い薄い唇が開くその一瞬を僕は何年経っても鮮明に憶えている。
次の瞬間、その鈴を転がす様な声を出しそうな唇から溢れ出た罵詈雑言に、僕の初な恋心は跡形もなく散るはずだったというのに。
彼女が形の良い眉をひそめるのも、冷たい瞳を怒らせるのも、薄い唇が罵るのも、全て僕だけになのだと気づいてしまったとたんに僕の恋心は手軽に息を吹き返してしまったのだった。

5/7/2024, 1:05:24 PM