俺は凄腕の霊媒師。
悪霊を払祓い続けて20年。
祓えなかった悪霊は存在しない。
そんな俺に舞い込む依頼はどれも危険な物ばかり。
どんな悪霊でも祓えるので、他の霊媒師が匙を投げた案件が俺に回ってくる。
だが危険な分、報酬も多いため文句はない。
今日も『ヤバい』案件を受け、とある病院を訪れる。
この病院のとある病室に、とんでもない悪霊が出ると言うのだ。
他の霊媒師が何人も挑んだが、全員が悪霊を前に逃げ帰ったそうだ。
どんな悪霊か楽しみである。
そして俺は、悪霊の出る病室の前まで案内されたのだが……
「これは……」
俺は目の前の光景に絶句する。
この病室には多くの数の悪霊がいた。
霊媒師をして長くなるが、今まで見たことないくらい多い。
確かにこの数では、並みの霊媒師では歯が立つまい。
『とんでもないのは数の方かよ』と脳内で愚痴を言う。
だが、多すぎないか?
というか多すぎて詰まっているぞ。
みっちりと、隙間なく……
ここまで来ると、詰まりすぎてキモイ。
おそらくこの悪霊たちは、霊道や鬼門、風水などの関係で、この病室にやってきたのだ。
そしてこの場に集まり、どんどん集まり、そして集まりすぎて、詰まる事になったのだ。
普通は、こんなことになる前にこの場を離れるはずだが、惹きつける力が強いのだろう。
逃げる事も出来ず、たた悪霊が増えるばかりで減ることが無かったのだろう。
よくよく冷静に見れば、悪霊たちは詰まりすぎて身動きが取れてないようだった。
ここまで集まると、悪霊でも動けなくなるのか……
勉強になったな。
『憎い憎い憎い』『なんでこんな目に』『狭いよぉ』『臭え』
だが、そんな状態でも悪霊たちは、悪霊らしく怨嗟の言葉を吐き、邪気をまき散らしていた。
主に他の悪霊たちに対して。
だがその邪気も、まき散らしてすぐ、病室に引き寄せられている。
そして邪気によって逆に悪霊たちが苦しみ、さらなる邪気をまき散らし、その邪気によって悪霊が苦しむ。
酷い光景だった。
あまりの光景に、さすがの俺も涙を禁じ得ない
だが唐突に、悪霊たちの怨嗟の言葉が止まる。
霊媒師である俺に気づいたのだ。
悪霊にとって、霊媒師は自分たちを滅ぼす敵。
こういった場合、悪霊たちは霊媒師に襲い掛かるのだが……
『助けろ助けろ助けろ』『解放してくれ』『助けてぇ』『ここ臭いよぉ』
悪霊が自分に助けを求めてきた。
霊媒師を続けて長いが、こんな切羽詰まった悪霊を見るのは初めてだ。
今まで、悪霊は害虫くらいにしか思ってなかったが、ここまでくると憐れになる。
俺は悪霊が嫌いのなので、普段は苦しませるように祓うのでだが、同情心から苦しませないように祓うことにした。
数こそ多かったものの、とくに強力な悪霊もおらず、しかも協力的なこともあって、これまでにないくらいスムーズに除霊を行う。
おそろしく時間がかかったため、その間に新しい悪霊が来たりもしたが、それ以外には問題なかった。
そして、なんとかすべての悪霊を祓いきる。
どっと疲れた。
肉体的というか、精神的に。
祓った悪霊からは『感謝感謝感謝』『恩に着る』『ありがとうぉ』『臭いから解放された』と感謝された。
悪霊から謝されるのは初めてだ。
今日は初めて尽くしの日である。
「先生、どうですか?」
見計らったかのように病院の院長がやってきた。
「院長さんか。
この病室の悪霊は全て祓った。
また集まらないように、結界も張ったのでご安心くれ」
「ありがとうございます。
来客室にお菓子を用意しています。
そちらでゆっくりしてください」
「悪いが、その前に寝かせてくれ。
数が多くて疲れた」
「構いませんが……
仮眠室は使っているので、他の病室しかありませんよ」
「構わない。
広い部屋で頼む。
でないと、あの隙間の無い光景を思い出しそうだ」
8/3/2024, 3:17:45 PM