G14

Open App

 俺は凄腕の霊媒師。
 悪霊を払祓い続けて20年。
 祓えなかった悪霊は存在しない。

 そんな俺に舞い込む依頼はどれも危険な物ばかり。
 どんな悪霊でも祓えるので、他の霊媒師が匙を投げた案件が俺に回ってくる。
 だが危険な分、報酬も多いため文句はない。

 今日も『ヤバい』案件を受け、とある病院を訪れる。
 この病院のとある病室に、とんでもない悪霊が出ると言うのだ。
 他の霊媒師が何人も挑んだが、全員が悪霊を前に逃げ帰ったそうだ。
 どんな悪霊か楽しみである。
 そして俺は、悪霊の出る病室の前まで案内されたのだが……

「これは……」
 俺は目の前の光景に絶句する。
 この病室には多くの数の悪霊がいた。
 霊媒師をして長くなるが、今まで見たことないくらい多い。
 確かにこの数では、並みの霊媒師では歯が立つまい。
 『とんでもないのは数の方かよ』と脳内で愚痴を言う。

 だが、多すぎないか?
 というか多すぎて詰まっているぞ。
 みっちりと、隙間なく……
 ここまで来ると、詰まりすぎてキモイ。

 おそらくこの悪霊たちは、霊道や鬼門、風水などの関係で、この病室にやってきたのだ。
 そしてこの場に集まり、どんどん集まり、そして集まりすぎて、詰まる事になったのだ。
 普通は、こんなことになる前にこの場を離れるはずだが、惹きつける力が強いのだろう。
 逃げる事も出来ず、たた悪霊が増えるばかりで減ることが無かったのだろう。

 よくよく冷静に見れば、悪霊たちは詰まりすぎて身動きが取れてないようだった。
 ここまで集まると、悪霊でも動けなくなるのか……
 勉強になったな。

『憎い憎い憎い』『なんでこんな目に』『狭いよぉ』『臭え』
 だが、そんな状態でも悪霊たちは、悪霊らしく怨嗟の言葉を吐き、邪気をまき散らしていた。
 主に他の悪霊たちに対して。

 だがその邪気も、まき散らしてすぐ、病室に引き寄せられている。
 そして邪気によって逆に悪霊たちが苦しみ、さらなる邪気をまき散らし、その邪気によって悪霊が苦しむ。
 酷い光景だった。
 あまりの光景に、さすがの俺も涙を禁じ得ない

 だが唐突に、悪霊たちの怨嗟の言葉が止まる。
 霊媒師である俺に気づいたのだ。
 悪霊にとって、霊媒師は自分たちを滅ぼす敵。
 こういった場合、悪霊たちは霊媒師に襲い掛かるのだが……

『助けろ助けろ助けろ』『解放してくれ』『助けてぇ』『ここ臭いよぉ』
 悪霊が自分に助けを求めてきた。
 霊媒師を続けて長いが、こんな切羽詰まった悪霊を見るのは初めてだ。
 今まで、悪霊は害虫くらいにしか思ってなかったが、ここまでくると憐れになる。
 俺は悪霊が嫌いのなので、普段は苦しませるように祓うのでだが、同情心から苦しませないように祓うことにした。

 数こそ多かったものの、とくに強力な悪霊もおらず、しかも協力的なこともあって、これまでにないくらいスムーズに除霊を行う。
 おそろしく時間がかかったため、その間に新しい悪霊が来たりもしたが、それ以外には問題なかった。

 そして、なんとかすべての悪霊を祓いきる。
 どっと疲れた。
 肉体的というか、精神的に。

 祓った悪霊からは『感謝感謝感謝』『恩に着る』『ありがとうぉ』『臭いから解放された』と感謝された。
 悪霊から謝されるのは初めてだ。
 今日は初めて尽くしの日である。


「先生、どうですか?」
 見計らったかのように病院の院長がやってきた。
「院長さんか。
 この病室の悪霊は全て祓った。
 また集まらないように、結界も張ったのでご安心くれ」
「ありがとうございます。
 来客室にお菓子を用意しています。
 そちらでゆっくりしてください」
「悪いが、その前に寝かせてくれ。
 数が多くて疲れた」
「構いませんが……
 仮眠室は使っているので、他の病室しかありませんよ」
「構わない。
 広い部屋で頼む。
 でないと、あの隙間の無い光景を思い出しそうだ」
 

8/3/2024, 3:17:45 PM