こより

Open App

「まだ見ぬ景色を見に行こう!」
「あんのかよ、そんなの」
「あるさ! きっと」
「どうだか」

フンと鼻を鳴らす俺とは対照的に、そいつは努めて明るく笑う。行こうよ、と差し出す手は人が作り上げた安っぽい光に照らされているというのに、彼女は人知の及ばない神様の様に見えた。犍陀多に蜘蛛の糸を垂らした仏様。或いは「光あれ」と仰った父。そういった類の存在。──否、事実そうである。

この世界が『誰か』によって作られた箱庭であると、一番最初に気付いたのは彼女だ。そして、ここから出ようと画策したのも。

「にしてもさ、ここから出れてもその後はどうすんの?」
「そうだなあ。さっきも言ったように、先ずは見たことない景色を見に行こう。世界の外に何があるのか知りたいな」
「その後は?」
「『創造主』に会おう。私や君を作り、この世界の『筋書き』を書いた人がいるはず。その人に会って、変えてもらおうよ」


人類が滅ぶという『筋書き』を。


揺るぎない決意を秘めた瞳が揺れている。光のプリズムの如く見る角度から視覚的な温度が変わる。それはきっと、見る人間によっても。彼女の、美術品のように完成されたすばらしいつくりのかんばせは、確かにこの世界が造られたものだという証明に思えた。それでも。

隣あって触れる温度はいきものの熱さ。素材の異なる服、薄い素膚の下で流れる血。それらが複雑に絡まって、巡って、身体をあたため。ああ、こんなにも生きていると実感するのに。

「……作り物なのか、俺たち」
「そうだね」





お題/まだ見ぬ景色

1/13/2025, 5:28:11 PM