能力者になりたい佐々木海星(偽名)

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【天国と地獄】
 死んだらみんなはどこに行きたい?天国?地獄?それを求めて自害する人だっている。でも、やめたほうが良い。死んでもそんなところなんていけないのだから。
 僕は大昔に死んだ亡霊である。僕は世界の様子を観察してきた。いろんなものが変わった。見たことのないものまで発見されるようになった。そして僕は今、この世界のマンションの屋上に来ていた。月が明るかった。雲一つなしの快晴で街は月明かりに照らされていた。その美しさに見とれていたときだった。誰かが屋上にやってきた。この時間帯に外に出るなんて、タバコでも吸いに来たのかな?僕はそちらに顔を向けた。なんとそこには少女が立っていた。こちらを見ている?いや、気のせいだろ。
こころ「誰?」
誰?この空間には僕と彼女しかいない。どういうことだ?とりあえず、話しかけてみようか。
海星「僕は実体のない生き物さ。」
こころ「何を変なことを言ってるの?」
???頭には疑問符しか浮かばない。ここ数百年。僕は誰にも話しかけられなかった。なのになぜ?
海星「僕のことが見えるのかい?」
こころ「そりゃあ、視界に映ってるから。」
海星「君はなんのためにここに来た?」
こころ「毎日が辛くてもうやめにしようかと。」
やめにする、かぁ。その気持ちはわかるが、彼女はまだ若い。ここで死なせるわけにはなぁ。
こころ「止めないでね。私は天国に行くから。」
海星「死んでも天国なんてないよ。無を歩くだけ。」
こころ「そんなわけないじゃない。天国は必ずある。」
海星「誰がそれを言ったの?」
こころ「それは…。」
海星「天国ってのはね、キリスト教徒が作り出した空想の死んだ者が集う世界なんだよ。それに、君はまだ長生きできる。誰かのために生きようとは思わないのかい?」
こころ「私には大切な人なんていない。親も私にかまってくれなかった。嫌気が差した。どこでもいい。この世界から逃げれるなら。」
海星「君は僕と同じ場所に来ない方が良い。」
こころ「?」
そんな会話をしていると、誰かが屋上のドアを開けた。
警備員「おい、どうした。君だけか?もう夜中だぞ。こんな時間に出たら、親御さんが心配する。帰りなさい。」
こころ「で、でも。」
警備員「いいから。」
その少女は警備員に連れて行かれた。僕も少し気になったので彼女の後を追った。
 彼女はちゃんと自宅に連れて行かれていた。しかし、家について数秒後、また、彼女はどこかへ行こうとしていた。
海星「どこ行くの?」
こころ「少し食べに。」
海星「マックとか?」
こころ「勝手についてこれば?」
そう言われたので僕は彼女についていった。
海星「こんな時間っていうのに、このマックは空いてるんだね。」
こころ「知らなかったの?」
海星「あまりこの時間帯にここらを歩いたことがなくって」
こころ「ふ~ん。ま、今回は私の最後の晩餐だから、私が奢るよ。何が食べたい?」
海星「僕はいいや。それよりも君はまだ死のうと思ってるの?」
こころ「そうだけど何か問題でも?」
そう言いながら注文をし、机にそれを置く。
海星「取り返しのつかないことになることはわかってるよね。」
こころ「そりゃあ、わかるけど。」
海星「じゃあ、とある昔話でもしよう。昔々。大きな街の小さな少年がいました。その子はとても明るく、元気で活発な子でした。しかし、両親が離婚し、その子は父親の方に連れてかれました。そして絶え間ない暴力と父親の無神経な行動にとても深く傷つき、ついには耐えられなくなりました。そしてその子は小さいながらも首吊りをして亡くなりました。その子は死んだら天国に行けると思ってました。しかし、理想と異なる現実世界にとどまることになりました。その子は夢かと思い、誰かに話しかけます。だけど、その声は誰にも届きませんでした。この世界はある意味地獄でした。」
こころ「それ、絶対作り話でしょ。」
海星「さぁ。それはどうかな?」
こころ「え?怖いんですけど。あとなんか周りの視線がすごいきてるきがする。」
海星「そりゃあ、君だけがしゃべってるんだから、そうなるでしょ。」
こころ「は?」
海星「食べ終わったんだから早く家に帰ろう。」
こころ「わかった。」
彼女は僕の後ろを歩いた。
 深夜の世界。よく見る光景だ。
おっさん「ねぇ、そこのお嬢ちゃん。1人?俺と夜遊びをしないか?」
こころ「?結構です。」
海星「早く逃げたほうがいいよ。」
こころ「そんな相手に聞こえるような声で喋らないで。」
おっさん「なに1人でモゴモゴ喋ってるのかな?まぁいい。ちょっとこっちおいで。何もしないから。」
海星「早く逃げろ。僕が何とかするから。」
こころ「わかった。」
おっさん「おい待て!」
彼女は案外足が速かった。やっぱお年のおっさんには勝てるのだな。そう思いながら僕も彼女を追った。
海星「足速いね。」
こころ「はぁ、怖かった。もう息切れしてる。」
海星「君は死にたいかい?」
こころ「まぁ、その気持ちは変わらないね。」
海星「君は何かの異変に気づいたかい?」
こころ「んーー。私1人だけ見られてるみたいな?」
海星「そうだよ。僕の正体を明かそう。僕は死んだ者だ。そしてさっきの昔話。主人公は僕さ。僕を触ってごらん。」
彼女は僕の腕をつかもうとした。
彼女「え?」
しかし、その手は空をきった。
海星「死んでも何も無い。話しかけても何も返事が来ない。君はそんな無の世界で過ごしたいかい?そんなはずはないだろ?君はまだ時間が残っている。これからの人生どうなるかわかったもんじゃない。自分で変えるんだ。君ならきっと良い結果になるだろう。さて、僕はそろそろお暇しよう。じゃあね。」
僕は背を向け、反対方向へ足を動かした。何も返ってこなかった。そんな無の空間で。
 その後、その地域で自殺したという事件はない。つまり、彼女はまだ生きているということだ。また何年後かに会いに行こう。初めて僕が見えた人に。

5/27/2024, 10:36:58 AM