燈火

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【上手くいかなくたっていい】


「ごめんなさい!」帰宅直後、妻が勢いよく頭を下げる。
「……どうした?」聞けば、シャツを焦がしたらしい。
日頃の疲れが溜まっていて、アイロンの途中にうとうと。
気づいたときには、くっきりと焦げ跡がついていたとか。

「なんだ、そんなことか。また買えばいいよ」
大したことではなくて拍子抜け。肩を撫でおろした。
シャツの一枚や二枚、高い買い物でもないのだから。
それより、妻がやけどをしていなくてよかった。

その後、ちゃっかり買い物デートの約束を取りつけた。
ついでに普段着や寝間着も買おうか、とわいわい話す。
週末まであと三日。僕の心は浮き足立っていた。
だから、仕事で重大なミスを犯してしまった。

ひどく落ち込む僕に、妻は「大丈夫だよ」と言う。
なんて無責任な言葉。「大丈夫なわけないだろ!」
苛立ち任せに怒鳴ったあとで、ハッとする。
「……ごめん」慰めてくれた妻にあたるのはお門違いだ。

幸い、迅速な対応のおかげで大事には至らなかった。
しかし確認不足で同僚に大きな負担をかけたのは事実。
強い自責の念に駆られ、事あるごとにため息が漏れる。
同僚に気を遣わせたこともなお申し訳ない。

解決した日、自宅の扉がひどく重く感じた。
あれからろくに話ができていなくて、まだ謝っていない。
完全に八つ当たりだったから顔を合わせるのが気まずい。
だが、まず謝ろう。そう決心して、扉を開けた。

リビングに入り、目が合うと妻がさっと逸らす。
「ごめん。怒鳴ってごめん。君は悪くなかったのに」
妻は軽く目を見開き、微笑む。「もういいよ」
「あなたは挽回できる人でしょう。楽しみにしてるね」

8/9/2023, 7:41:24 PM