鏡
気に入らない日だった。
帰宅して顔を洗う。汗は消えても、不快な気持ちは微塵も消えなかった。
不機嫌な顔。洗面台の鏡に見慣れた顔が映っている。左右だけでなく、中身までも反対に写してくれたなら、さぞかし爽快な顔だったろうに。
憤懣を抑えきれず、鏡にドライヤーを投げつけた。イメージよりも小さな衝撃音だった。
散らばる破片。そのどれにも、さっきの不機嫌な顔が写っている。
暴れたところで何も無い。しかめっ面が増えただけ。
疲れ切った体で破片を拾い始めた。
そんな顔で見るなよ。 俺は鏡の中の愚か者に言った。
そもそも、俺は悪くない。悪いのはあいつだ。いつもあいつが悪い。
あいつさえ……、あいつさえ居なければ……。
4つ目の破片に手を伸ばしたとき、写っている顔が歪んでいるのに気付いた。今まで見たことのない笑み。悪意の笑み。
ちょうど、あいつを消すすべを思いついたときだった……。
8/18/2024, 12:43:55 PM