#過ぎた日を想う
「……はい、はるちゃん。できたよ。」
「……うん。」
床に向けていた視線を眼の前の大きな鏡向ける。
「ふふ、かわいいじゃん。」
「……うん。」
真っ白で丈の長い、ふわっとした衣装に包まれた自分を見る。
ついに来たんだという実感とともに、これから始まるんだという緊張が胸を取り巻く。
「緊張してるの? らしくないね。堂々と居ればいいんだよ。」
「華はいつも楽観的でいいよね。私とは違って……」
気づけば握りしめていた手には、爪が食い込むほど力が入っていて。
華がそっと撫でてくれて、少しだけ力が抜けた。
「もう。大丈夫だって! ゆっくり呼吸して、これまでのこと思い出してみて?」
華の言う通り、目を閉じてゆっくり息を吸って、竜也とのことを考える。
高校生のとき、学校帰りに一緒にドーナツ屋さんに行ったこと。
嫌がる手を引いて、一緒に星を見に行ったこと。
一緒に学校を抜け出したこと。
高校を卒業する日告白されて、大人になって同棲を始めて。
人肌が恋しい夜には手を繋いで寝て。
学生の頃はそんなこと、全く想像もつかなかったな。
ついに、竜也と結婚するんだ。
「……楽しみ、だな。」
そろそろ時間だ。
控室の扉を開き、式場へ一歩踏み出した。
10/6/2024, 12:56:43 PM