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色とりどり


悲しい、と落ちた涙の色は深い青だった。
嬉しい、と花が咲いたような笑顔は黄色だった。
ふつふつと沸き上がる怒りは、燃え上がる炎のような赤で、穏やかな波のような優しさは緑だった。
色んな感情を覚える度に、その感情に色と名前をつけた。
真っ白な紙に覚えた感情を塗っていく。原色しかなかった色たちは次第に合わさることを覚え、複雑な色さえも作り出すことができた。そう、感情も同じように複雑になっていったんだ。
何色も何色も混ざった色はどんどんと濁っていき、とうとう黒色になった。
色とりどりの美しかった紙はいつしか真っ黒に塗りつぶされていて、何かを感じることすら億劫になってしまった。
そんなとき、君の一滴の言葉がその黒を少しだけ薄めたんだ。その下にあるはずの色を思い出させるようなその言葉に動かなくなっていた心が動く。
君の、その何気ない一言に救われたんだ。自分に向けられた言葉じゃないのに、君の感性で綴られた文字が思い出させてくれたんだ。
色とりどりの感情を、美しいこの世界のことを。

1/8/2023, 2:30:21 PM