「もしかして、ライブ初めて?」
斜め掛けしたバッグの紐を両手でぎゅっと握り、お父さんと一緒にグッズ列に並んでいた私に、前にいた二人組のお姉さんが声をかけてきた。
「はい、初めてです」
本当はお母さんもライブに来たかったみたいだけど、弟がまた小さいので留守番となり、代わりに連れてきてくれたお父さんが隣にいる。
「もしお邪魔でなければ、お嬢さんと少しおしゃべりしても大丈夫ですか?」
お父さんに話しかけているその人は、まるで外国の人みたいに、綺麗なブロンド色の長い髪をしていた。
グッズ列に並んでいる間、私は初対面のお姉さんたちと話すことになった。
「ねえねえ、今いくつ?」
「12歳です。中学1年生です」
「いやーん、12歳って!めっちゃ若いやん」
もう一人のお姉さんはボブヘアも含めて全身黒ずくめ。メンバーカラーかなと思って聞いてみると、やっぱり推しカラーだった。
二人はもともと同じ東京の会社で一緒に働いていたと説明してくれて「せやから、うちは関西弁と標準語のバイリンガル」なんてことを話してくる。
生の関西弁を聞くのは初めてかも、そんなことを思っていた。
入学のお祝いで初めてライブに来たこと、グループ推しであること、いろいろ話をしていたから、長い列にいても全然退屈しなかった。
「それにしても、今日が初ライブだなんて、羨ましいよ」
「ホンマ、羨ましい」
二人して私を羨ましがっている。
「彼らのライブを初めて見たときの感動は一生忘れないと思うわ。それを今から体験できるやなんて」
「弱った私たちの心に光を灯してくれるほどの感動だったもんね。大げさじゃなく、たった1つの希望だよ、あれからずっと」
「せやな、大人になるといろいろあるからな」
二人して顔を見合わせて、ギャハハハと笑った。
とても楽しそうに話す二人を見ていたら、なんだか少し羨ましくなった。
ライブが始まった瞬間に、お姉さんたちが言っていたことが少しだけ、わかったような気がした。
息をするのを忘れるくらいに、惹き込まれて、ずっと心臓のバクバクが止まらなかった。
「すごかったなあ!今度みんなで来よう。感動しちゃったよ」
何故か隣にいるお父さんが興奮している。
そっか、この感じを感動というんだ。
ライブが終わり、会場から出てくる大勢の人の中から、お姉さんたちを探そうとしたけど、人が多すぎて見つからなかった。
でも、同じ推しだから、また会えるかもしれない。
そんなことをぼんやり思いながら、はぐれないように、お父さんの腕をギュッと掴んだ。
【たった1つの希望】
3/3/2026, 9:45:18 AM