雪(以前投稿した、カラフル、またいつか、の続きです。偶然雪で覆われた地が舞台だったので……いずれ過去のも再編して個人サイトにまとめたさある)
延々続く銀世界とて必ず果てはある。
旅路に終着点があるように、何事にも必ず。
吹雪に身を凍てつかされそうになっても、決して挫けること無く進み続ける。地平線の果て、荘厳なる黄金の城を目指して。どんなに冷たい世界でも、どんなに苦しい時でも、雪を踏みしめ続けるのは変わらない。
帰りたいとか、寂しいとか、そう思った事がある。
でも、帰らない。目標を達するまでは。
「……はあ」
吐く息は白い。
紛れることのない孤独感に苛まれつつも、狩った獣の肉を噛み千切る。かなり大型の鹿で、一度でもモロに突撃されてしまえば容易に父の後を追える。
こうも寒いと資源が限られるから小型の動物がいそうだが、ベルクマンの法則からそんなことはない。リー・エンフィールドの弾薬も決して多くはないから、ある程度近接戦をしているし、二人で狩りを出来ていた時が一番楽だった。
二人で……
「ラーノチカ、今何してるのかな」
「大事な物を持っていき忘れたおバカちゃんを追って、三千里辿ってきたところよ」
「……ラーノ……チカ?」
とうとう幻覚が見え始めたかと思った。
普段よりも遥かに重装備な彼女が、ウィンチェスターM1887を背負ってそこに立っていたのだ。
確か休憩のために辺りに罠を巡らせていたはずだが……全部躱されたのは私のだから、なのかな。
慌てふためく私の横へ、ほんのり疲れを滲ませた様子で座り込む。
「……あんなにちゃんといってらっしゃいの挨拶をしたのに、家でお迎え出来なくてごめんなさいね」
「幻覚、かな」
「こうやってほっぺを摘まんだら、そうじゃないって分かるかしら」
むにっ
「いたぃ」
「ふふ、これで分かったかしら」
幻覚じゃなくて、現実。
なんだか実感が沸かない。新雪よりもふわふわしてるような、そんな非現実的な感覚が胸中を占める。彼女は虚弱でもなければ頑強でもない。たまたま出会った時はかなり弱っていて、指先なんかは氷みたいで。体温と焚き火で精一杯温めて、その後名前を知った。
――スヴェトラーナ
住んでたところよりも、もう少し寒い辺りの言葉で『光』を指す言葉。
それで、愛称が……
「ラーノチカ」
「なーに?」
愛称で呼ぶ度に、ふわりとはにかむ。
栄華の痕跡も、繁栄の軌跡も、栄辱の全ても雪で覆い隠されたこの地において、唯一心を許せる存在。私の金髪とは対照的な銀髪のロングヘアには、時折目も奪われる。
「大事な物持っていき忘れたって言ってたけど、あの……その……スノーモービル、とか?」
「ええ、もちろん」
「ラーノチカ、それラーノチカが交易に行く時の為に置いていったの、だから、別に忘れたわけじゃ」
「ええ、優しい貴方なら気遣ってそうしたのは分かってるわよ」
ならどうして、と問おうとした。
けれどその瞳に私は勝てなかった。
「その……早く、帰ってきてほしかった、会いたかった……なんて、言ってもいい?」
自信なさげに問うラーノチカの口角は上がっていたけれど、その眉は下がっていた。
……私には、やらなくてはいけないことがある。父の死について知ることだ。けれども、私はそれの為に……今やただ一人の、"家族"みたいな、そんな人を……置いて、行ってしまった。
父が死んだ時、狩りを教わって1年かそれぐらいか。今よりもまだ背が低くて、父と毎日を過ごすのは当たり前だと思っていた。突然終わりを告げて、一人で生きなくてはならなくなって……雪空は孤独の象徴となった。
「……うん。行こ。二人で早く行って、知って、それで早く帰る……そのために、久々に二人乗りだね」
久方ぶりの一人ぼっちな雪空は、もうおしまいだ。
1/7/2026, 6:06:52 PM