たやは

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やさしい嘘

ここは、江戸の北町奉行所のお白州。
私のおっとさんが人殺しの下手人として捕まえられ、このお白州に連れてこられた。
でも違う。おっとさんは人を殺すようなことはしていない。お白州の後ろにいる加納一家の仕業だ。どうして、お奉行さまはあの連中を捕まえないのか。見ていた人もたくさんいたのに、みんな加納一家が怖くて本当のことが言えないでいる。
どうしたらいいの。

「北町奉行、東山左衛門尉さまの御成〜」

お白州にいる全ての人が頭を下げ、お奉行さまの裁きに耳を傾けた。

「平八。お前、江戸町長屋で遊び人の金さんさんって知ってるか。」

「ええ。知っております。金さんなら、全てを見ていた金さんなら、こいつらが本当の下手人だと知っています。」

「ほう。そん金さんとやらが証人と申すのだな。」

「お奉行さま。そのような者がどこにいますかな。この加納八兵衛。そのような者見たことがない。」

加納一家が次に次にがなり立てる。

「そうだ。そうだ。どこにいる。」

「いるなら出してみろ。」

お奉行さまがスッ立ち上がり、裃から肩を抜き叫んだ。

「やいやい、この見事に咲いた遠山桜。見忘れたとは言わせねえぜ。」

あれは金さんと同じ桜の入れ墨。じゃあ、遠山さまが金さん!

遠山桜をみた加納一家は、言い逃れできずに下手人として捕らえられ、おっとさんは解放された。


これが私の前世の記憶。
私は今年大学2年になるが、小学生の頃に時代劇を見ていて前世を思い出した。
こんな話しをしても誰も信じてはくれない。でも本当のこと。
だって、私の膝枕でうたた寝をしている彼は、金さんの生まれ変わりだから。

さすがに桜の入れ墨はないけれど、顔も声もしゃべり方も歩き方も全て金さんと一緒なのだ。

彼も自分は遠山の金さんの生まれ変わりだと言う。

でも、それは嘘。あなたのやさしい嘘。
私に話しを合わせてくれているだけの嘘。
私の話しをバカにせずに真剣に聞いてくれるあなたが大好き。

金さんであってもなくても、私はあなたが大好き。これからもずっと一緒にいて下さい。

1/24/2025, 12:04:24 PM