ガキの頃は、こうじゃなかった。
電磁弾が耳のすぐそばを通り抜けたのを感じ、俺はボンヤリとそう考えていた。
ワケの分からない言葉を叫びながら塹壕に飛び込み、震える手で爆弾を取り出す……そんな自分を、離人症じみて、現実感の持てない俺が見つめていた。
(こんな筈じゃなかったんだけどな)
後方から火が噴き上がり、熱い爆風と土片が首に飛び散ってくる。震える指が、なんども爆弾のピンを外れる。
ようやくピンを抜いた俺は、3秒数えてソレを投げた。耳を塞ぎ、屈んで祈る。
数秒後に、激烈な震動。雨のように降り注ぐ土と共に、機械の破片が目の前に落ちた。
ドローンだ。半壊したソレに、ライフル弾を必死になって撃ち込み続ける。数度のスパークののち、ようやく俺はトリガーから指を離した。
ドローン。戦争で人は死なないなんて、嘘っぱちだった。それは無人機で前線が維持できる国の言い分だ。俺たちのように前線を押し込まれれば、どうしたって人力が必要になった。
(こうじゃなかった。こうなる筈じゃなかった。勝つのは俺たちで、死ぬのはドローンだけで……)
頭上をまた、電磁弾が通過した。空気が揺れるのを感じて、気がおかしくなりそうだ。
そしてふと、子供時代を思い出す。あんな感覚を、幾度となく味わったことがある気がする。
ああ、そうだ。野球だ。
青々とした野原の中で、焼けつくような太陽の下で、顎につたう汗を拭ってバッターボックスに立っていた。
よく一緒に遊んでいたピッチャー役の幼馴染。投球がヘタでしかたないヤツだった。
アイツの投げた球が、よく耳元をかすめていったのだ。そんなときに、俺は空気が鳴くのを感じていた。
(ごめんな! もっかい投げっから!)
(ノーコン! ちゃんとしろよな!)
蝉の鳴き声。鼻をくすぐる土の匂い。錆びた金網にボールが当たる音。
遠くに身を起こす入道雲が、太陽を隠そうとしていたのを覚えている。
「……雨が降るな」
その匂いを嗅いで、俺は思わずつぶやいた。そうだ、雨が降る。俺は、家に帰らなきゃならない。
ぽつりと、頬に水滴が当たった。見上げれば、上空を埋め尽くす無人機の群れが、一斉に爆弾を離すのが見えた。
「はは。帰らねえと」
ずるりと、握っていた何かを落とした。もう、どうでもよかった。
そんなことより帰らなきゃダメなんだ。帰って、家の戸を閉めて、親に叱られながら宿題をして……
ああ、ゲームもいいな。ノーコンなんて言ったこと謝ってから、アイツとゲームしよう。スイカもあるし、機嫌を直すさ。友達がいれば、うるさい親も怒りはしないだろ。
遠雷が、少し続いた。そして、途切れた。
目標文字数 1150字
実際の文字数 1138字
主題「子供の頃は」
副題「SF」
影響を受けやすすぎる
6/23/2024, 1:53:31 PM