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「夢を、覚えているんだ」
昨日の夢も、一昨日の夢も、ずっと前の夢も。普通の人なら目が覚めてしばらくすると記憶から消されてしまう夢の話を、俺はずっと覚えている。
そのせいで、今俺がいるこの世界が夢なのか、現実なのかすら分からない。
「店長さん、おかわりください」
「……うん」
彼女がいるということは、夢の中なんだろう。
可愛らしい猫の模様がついたマグカップを受け取り、温かいココアを注いでいく。最後に角砂糖をふたつ入れて、彼女に渡した。サービスと言って小さなカップケーキを差し出せば、彼女はまるでネコのように目を細めて小さく喜んだ。
思えば、最近はずっとここにいるような気がする。これじゃ夢の中が現実だと言っても過言じゃないや。
この場所が嫌いというわけじゃない。
それでも、友達とくだらない日々を送ることができているあいつのように、俺も過ごしてみたかった。
普通の人間で、ありたかった。

——今更、ないものねだりだけれど。

3/26/2022, 12:26:54 PM