名前の無い音

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『誕生日』

ちょっと早く仕事が終わった日
家までの道を ぼんやりと歩いていた

まだまだ日が長い 夕焼けがきれいだ
公園からは 子どもたちの
元気な声が聞こえてくる

ほわりほわりと
シャボン玉の集団が流れていく
誰かが シャボン玉で遊んでいるんだろう
幸せのおすそわけだ

そういえば 今日って
誰かの誕生日だったよなと
それを見て思い出す
ふわっと 頭の中に
懐かしい顔たちが浮かんだ


もう 昔には戻れないけど
確かに 一緒に過ごした時間
あの頃は楽しかったな

バカだったけど
アホだったけど
ただ ただ 楽しかった


『好きなことをやって生きる』って
実は 意外と難しくて
あの頃は 今よりももっと必死で
でも 今よりも もっと充たされていた
そんな気がする

誰かの誕生日だと言えば
集まって飲み
誰かが別れたと言えば
集まって飲み
なにかしら みんな
顔を合わせていた気がする

『縁』なんて言うとおかしいけど
こうやって何年たっても
フッとした瞬間に思い出す


真夜中の公園で
シャボン玉をやろうって言い出したのは
誰だったか

近くのコンビニにある
シャボン玉セットを全部買い占めて
いつものメンバーで 一斉に吹いた

夜のシャボン玉は
公園の街灯に照らされて
ぼんやりと漂ったあと
ゆらり ゆらりと 暗闇にとけていった

割れたのか
割れてないのか
結末は誰もわからない

まぁ そんな最終回があっても
別に誰も気にしないだろう

思い出は 終わりがない
そしてまた
現実にも 終わりはない

「ほら!帰るよ!」
「はーい!」

シャボン玉の子たちの母親だろうか

さて 自分も 帰ろう 帰ろう
それにしても 誕生日が誰だったか
ちっとも思い出せない

(帰ったら あいつに 電話してみるか)

もうすぐ 夕焼けが終わる
ぼんやりした 重い足取りが
少しだけ 軽くなった気がした

7/26/2022, 4:46:38 PM