NoName

Open App

窓から見える景色

『窓からはどんな景色が見える?』

一足先に夕飯を食べ終えた姉は、スマホ片手にご飯を食べる弟に言った。

『心理テスト?』
『いや今日のお題。それより行儀悪すぎな』

弟は一日中スマホをいじっている。その大半がアプリゲームで、今やっているのは同じステージを周回してキャラを育てるシステムのゲームだ。
よくも飽きずにやれるなと姉は肩をすくめる。そのストイックさを他のところでも是非発揮してほしい。


『木の葉が落ちていく景色。最後の葉っぱが落ちたら、寿命がくるみたいな』

『あー、切ないやつね』

『でもあれさ、よくよく考えたら、また葉っぱつくじゃん。ってことはまた復活するんだよ』  

『それめっちゃいい考え方じゃん!』

姉は目を開いた。
まさか弟からこんな話が出てくるとは思ってもいなかったから。
普段ゲームにしか脳がないのに。

『なんか友達が彼女と上手くいってなくて、「あの葉っぱが落ちたら俺も終わりだー」みたいなこと言ってたわけ。でも木ってまた葉っぱつくよなって何人かで喋ってたら発展してた』

それで励ましてたっと弟は言う。
 
なにその詩的な励まし方と姉はケタケタ笑った。


生い茂っていた木の葉は時の風に吹かれて散ってゆくが、いつだって新しい芽をその体に宿しており、いつか花が咲くかもしれない。

『木は木だろ。ただそこにあるだけで』

お風呂から上がってきた兄が口を挟む。

『また情緒もないこと言うー』

『人が勝手に意味を持たせてるだけだ。意味ばっかり考えてると疲れんだろうが。
葉っぱが落ちても、ただ落ちたって事実があるだけで、彼女と上手く行くか行かないかと全く関係ないから安心しろ』

『いや、俺じゃなくて友達の話なんだけど…』

兄は言うだけ言うと、スリッパをバタバタと音立てて廊下へ消えた。

人の数だけ見える景色があり、すべての人が同じ景色を見てるとは限らない。
でも、だからこそ盲目な状況にある人を気付かせたり、救えたりすることができるのかもしれない。

『そういう姉ちゃんは何が見えるの?』

『私?私はねぇ…』

景色は移り変わってゆく。
ずっと同じシーンではないから。
貴方が見る景色に光がありますように。

9/26/2022, 8:55:39 AM