いぐあな

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300字小説

雨夜

 夜闇にしとしとと雨の落ちる音がする。
「止みませんね」
 一夜の宿を所望した旅の御坊の為に私は粥を煮ていた。
「ところで、こんな寂れた場所に女一人でお住いなのですか?」
「はい。主人が都に働きに出ているもので」
 ……こんな会話を前もしたときがあった。あのときは相手は貧相な男で私の言葉を聞いて、ニヤリと笑い、近づいて……。
 悲鳴を上げる私の目を御坊の手が塞ぐ。
「思い出されましたか? 貴女は最後の雨の夜に囚われているのです。しかし、降り止まない雨はありません。拙僧が御仏のもとにお送りいたしましょう」

 床下から現れた妻の骨に御坊が経を唱える。
「……これて妻は……」
「無事、浄土に旅立れました」
 骨を拾い、俺は泣き崩れた。

お題「降り止まない雨」

5/25/2024, 11:39:06 AM