―世界に一つだけ―
人の話し声より蛙や蝉の鳴き声が飛び交う町。世界に2つしかないコンビニの内の1つを目印に、横臥しているポストの隣の狭い路地を進んで路地をぬけた先。やけに新築めいた二階建ての家がある。人の住む家というより店の様相を呈しており、入口の隣に看板が置かれている。看板には「古本買取しています」と書かれており一般住宅ではないことが分かる。表札を見た限りここは、誰が為に金は成る本屋という店らしい。どうしようか、入ってみようか。店のようではあるがそこで人が暮らしているという痕跡が所々に見られるので、どうも躊躇ってしまう。だがもし本屋なのだとすれば、自分の持ち物として、こちらが手放さない限り永遠に自分の物としての本を手に入れる事が出来る。妙な汗をかく。根拠は無いがここで選択を誤れば人生が終わる予感がする。呼吸が荒くなり少し目眩がする。行くしかない、勇気を振り絞って。額の汗が鼻の先まで垂れていく。よく考えてみろ、表札に店名だぞ、看板もあるし明らかに本屋ではないか。両の手が震え日傘を落としそうになる。
すーーー、はーーー。
深呼吸をして心を落ち着けた。もう迷うことは無い。今日自分は己を改革するのだ。
傘を閉じて折り畳みカバンに入れた。目を閉じてもう一度深呼吸する。
私は店に背を向けて、思い切りダッシュした。
9/9/2024, 7:19:50 PM