134.『1000年先も』『Kiss』『溢れる気持ち』
昔々、ある所にAジプトと言う国がありました。
代々『ファラ王』と呼ばれる王が治めるこの国は、とても繁栄をしていました。
歴代のファラ王はその誰もが名君であり、国中は活気にあふれ、餓える者はおらず、民は皆笑顔で暮らしていました。
Aジプトは、国民の誇りでした。
『1000年先も、繁栄し続けるだろう』
国民たちは、そう信じて疑いませんでした。
ところがです。
建国してから200年経った時の事、悲劇が起こります。
野心を持った逆臣たちが結託し、あろうことか当時のファラ王に毒を盛ったのです。
そしてファラ王の命を奪うだけでなく、5才になるファラ王の息子を即位させ、傀儡政権を築こうと目論んだのです。
そのことを知った国民たちはたいへん嘆きました。
「由緒正しきファラ王の血筋とはいえ、5才の子供。
奸臣たちの甘言に惑わされ、国を滅ぼすだろう」
ですが、その心配は杞憂に終わりました。
新しいファラ王は、幼いながらもその才能を発揮し、国をよく治めたのです。
逆臣たちの意見に耳を傾けず、常に国民のために頭を悩ませる。
まさに名君の鑑でした。
「年齢を理由にファラ王を疑ってしまうなんて……
ああ、自分はなんて愚かなんだ」
民は己を恥じ、王への忠義をより一層深く誓うのでした。
しかし、面白くないのは暗殺を企てた逆臣たちです。
身の危険を冒してまで暗殺を遂行したのに、ファラ王は一向に自分たちの意見を聞き入れる気配がありません。
それどころか、自分たちに疑いの目が掛かっている気配もありました。
逆臣たちは、対応を迫られました。
追い詰められた彼らは、ある奇策を打ち出しました。
それは「ハニートラップ」。
いかに賢いファラ王といえど、まだ5歳の子供。
大人の女性の色香には抗えないと踏んだのです。
さらに『大人のKiss』の現場でも押さえれば、ファラ王を脅し、意のままに操ることができる。
逆臣たちは計画の成功を確信し、さっそく国一番の美女を呼びつけました。
「金はいくらでも支払う。
幼いファラ王を大人の色香で惑わし、骨抜きにするのだ」
逆臣のリーダーは、女性に傲慢な態度で命じます。
ですが呼び出された女性は、毅然として頭を横に振りました
「いいえ、お断りよ。
子供には手を出さないわ」
これには逆臣たちも驚きました。
まさか断られるとは思わなかったからです。
それもそのはず、この女性は非常に高い倫理観――すなわちコンプライアンスを遵守し、年端もいかぬ子供には手を出さない、良識ある大人の女性だったのです。
唖然とする家臣たちを前に、女性は頬を赤らめながら告げました。
「そんなことより、あなた方のような素敵な紳士たちとお付き合いしたいわ」
◇
「報告します」
幼いファラ王の元に、密偵が膝をつきます。
「あの逆臣どもは、陛下の仕掛けたハニートラップに引っ掛かりました。
あの様子であれば、前王暗殺の証拠が見つかるのも時間の問題でしょう」
ファラ王はその報告を聞いて、その場で飛び上がりそうになりました。
しかし彼は、Aジプトを統べるファラ王です。
王たる者、人前で安易に感情を表に出してはいけません。
彼は、溢れる気持ちを心の底に押し戻し、何事も無かったかのように、不敵に笑みを浮かべて見せました。
「分かった、ありがとう。
引き続き頼む」
「はっ」
密偵は闇に溶けるように消え、その場にはファラ王だけが取り残されました。
「それにしても――」
彼は小さく肩を震わせて言いました。
「――父上はよくやるよ」
実は、逆臣たちが知らない事実が一つだけありました。
それは毒を盛られた先代のファラ王が、奇跡的に生還したということ。
九死に一生を得た前王は、側近から事情を聞き『自分で復讐する』と宣言、自分の死を偽装したのです。
影から息子に助言をしながら、虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのです
そして逆臣たちがハニートラップを企んでいる事を聞きつけた前王は、さっそうと現場に乗り込みました。
そう、逆臣たちが呼び寄せた国一番の女性の正体は、なんと前王が変装したものだったのです。
「うひひひひ、あいつらも可哀想になア」
自分たちが熱中している女が、まさか殺したはずの前王だと知った時、逆臣たちはどんな顔をするのか――
それを想像した瞬間、若きファラ王は溢れる気持ちを抑えきれず、年相応に大笑いするのでした。
2/12/2026, 1:36:50 PM