CICADA

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たまには1人になりたくて、思いつくまま歩いて向かった先は海だった。

深夜0時、人気のない海。
それは辺りがひっそりと闇色に染まり、穏やかな静寂と緩やかな波の音だけが存在する場所だった。

昼間は仲間達が楽しげに遊び、騒がしかった海も今ではすっかり別の顔だ。
…まるで、普段の俺と今の俺のようだ……

皆がいる前では明るくて馬鹿なことを言ったりする俺だが、それは所詮表の顔でしかなくて、本来の俺は今のように虚無なのだ。
これは、相棒にすら見せたことのない素顔。
昔から快活な「俺」を演じすぎていたのかもしれない…
今の俺を見たら、あいつは一体どんな顔をするのだろうか。

気まずそうな顔をするのか、はたまた悲しそうな顔をするのか…
…いや、多分もっと複雑な表情で俺を気遣うのだろうな。

徐に、履き古したブーツと靴下を脱ぎ、裸足で砂浜を歩いてみる。
さく、さく。
砂粒の感触は思いのほかひんやりとしていて、優しい。
その優しさに甘えたくなって、どふ、と仰向けに倒れてみた。
髪に砂粒が絡むが、そんなことは気にならない。ただ、今のゆったりとした「無」に浸りたい…それだけだった。

新月の夜、闇色に染まる世界で耳に心地よく響く波の音と優しい砂粒の感触だけが俺の素顔を見ている…
今だけ、今だけは、仮面を外した素顔の俺でいさせてくれ。
日が昇る前にはいつもの俺に戻るから。

そしてまた、仮面を被り直すから。
いずれ来る、俺と化け物の終わりの時まで…俺は「俺」を演じ続けるから。

だからお願いだ。
今だけは、夜よ、明けないでくれ。

8/15/2024, 1:57:55 PM