夢月夜

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『誰かのためになるならば』

俺の幼なじみの彼女には生まれ持った不思議な能力があった。

再生の力。

人の身体、物、土地、あらゆるものを再生させる不思議な能力で、沢山の人が彼女に救われてきた。今や奇跡の力とさえ言われる程に皆が彼女を求める。

けれどそんな大きな力の副作用がないはずはなく、能力を使えば使う程身体は蝕まれていく……それが代償だ。

それでも彼女は笑顔を絶やすことなくこう言うんだ。

【誰かのためになるのなら、誰かを救えるのならこの命が尽きても惜しくはない】と。

とんだ奉仕精神だ。
そんなの偽善者だろ。
他人の為に自分の命を削るとか馬鹿げてる。
そんなとしてなんの意味があるんだ。

俺は彼女を罵倒した。
彼女を失いたくなくて、止めたくて出た言葉は優しさの欠片もないもの。上手い言葉が何ひとつ出てこない己の情けなさに拳を強く握ることしか出来なくて。

そんな俺に罵声を浴びせられても彼女は決して怒らず穏やかな笑みを讃え続けていたんだ。

あの時、彼女に嫌われようとも手段を選ばず強制的なに止めていたならこの未来は訪れなかったかもしれない。後悔の念が頭の中に渦巻いていく。

完全に蝕まれ死を迎えた彼女の身体を抱きしめて俺は一晩寝ずに一人で声も出さずに泣き続けた。

誰かの為になるならばと死を選ぶんじゃなくて、俺の為に生きて欲しかったよ。

7/26/2022, 12:59:42 PM