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お題 曇り
「うーん……晴れないなぁ……」
俺は校庭の隅っこで、カメラを片手に持ちながらぼんやりと空を見上げていた。空はどんよりとした灰色の雲に覆われている。
俺は写真部に所属しており、今日は真っ青な空を撮りたい気分だったのだ。午前中までは晴れやかな空だったのになぁ、なんて思ってると後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、写真撮れたぁ?」
振り返ると、同じ写真部の同級生が立っていた。彼女とは同じクラスでもあり、隣の席だ。
「まだ撮れてない」
「なんだぁ。んじゃとりあえずあたしと写真とっとこ。ハイチーズ」
スッと彼女が俺の隣に来て、彼女は自身のカメラのレンズをこちら側に向けてシャッターをきった。僕も掛け声に反射でピースをしてしまった。
「はい、あたしのが先に写真撮った。あたしの勝ち〜」
「くそ、負けた……って、写真部の活動にそんなルールないよ」
「あは、ノリツッコミってやつだ」
彼女は目を細めて笑った。彼女は、所謂、『ギャル』に分類されるだろう。そんな彼女は僕が声を掛けて部活に誘った。
…
…
…
写真部に入りたての頃、部員が足りなくて廃部の危機だった。数少ない友達に声を掛けてはみたものの全て玉砕してしまった僕は、ヤケクソでたまたま隣の席だった彼女にダメ元で頼んだのだ。
長く、飾りつけされた付け爪を付けた指でスイスイとスマホを操作している彼女に声を掛ける。考えてみれば、初めて彼女に声を掛けたのはこの時だったかもしれない。
『あ、あの……』
『……』
『ギャル』という今まで関わらなかった存在に怖気付いて、声がか細くなってしまい、どうやら彼女は気付かなかったようだ。
『あの!』
深呼吸したあと、今度はもっと大きな声で話しかけると、彼女はこちらを向き目を瞬かせた。
『え?あたし?ごめんごめん。てか、初めて話すね?』
『う、うん。いきなりごめん。あの、写真撮るの興味ない?あ、いや、興味無くてもいいからさ、幽霊部員でもいいから写真部に入ってくれないかな?』
そう声を掛けると彼女は一瞬の沈黙のあと
『いーよー』
と、笑って返事をしてくれた。
…
…
…
それから数ヶ月経つが、彼女は意外にも部活動に積極的に参加してくれたし、俺も彼女と話すのに大分慣れた、気がする。
「でも君がまだ1枚も写真撮ってないのって珍しいね」
「今日は青空の写真の気分だったんだよ」
「曇りでもいいじゃん」
そう言って彼女は空に向けてカメラのシャッターを押す。
「あたし、曇りも好きだよ。君にそっくり」
「……悪口?」
暗そうな奴、ということだろうかと思ってしまい、眉間にシワを寄せて彼女に問う。
「違うって。なんだろ、分厚くて何考えてんだか分かんなくて、暗そうに見えて」
「やっぱり悪口だろ!」
「あはは、見えたけど。……でも、雲を抜けた先には、空が広がってるでしょ?」
「うん」
「素敵でしょ」
「……適当に話してるだろ」
「あはは。あ、ほら、見て見て。雲と雲の間から少しだけ青空見えるよ」
「ほんとだ!」
俺はすぐさまカメラを構えてシャッターを押した。
「うん、これはこれで良いな!ありがとう」
そう彼女に伝えると、
「ね、雲りの先に面白いものがあるってわかると雲りも悪くないでしょ。だから、あたし曇りも好きだよ。まあ、晴れが一番好きだけど」
「ふは、なんだそれ」
意味がわからなくて思わず吹き出すと、彼女も笑って俺にカメラを向けてシャッターを押したのだった。
3/23/2025, 4:12:46 PM