濃霧

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雨上がり

六月の終わり。
東京の空は、朝から激しい雨が降っていた。

「今日は無理だね」

駅のホームで、彩香がそう呟いたとき、翔太は黙って彼女の傘を見つめていた。二人で使うには少し小さすぎる、それでも距離が近いから悪くなかった——昨日までは。

「ねえ、翔太」
「……ん?」
「私たち、もう会うのやめようか」

雷でも鳴ったかのように、翔太の鼓膜が震えた。

「なんで急に?」
「急じゃないよ。……ずっと考えてた」

彩香の言葉は、雨粒のように冷たかった。
最近、彩香の声には笑いが少なかった。返信も短くなり、会う約束も「また今度」と先延ばしにされた。
それでも、翔太は信じていた。雨が降っても、いつか晴れると。

「……好きな人でもできたの?」
「……そういうのじゃない。そういうのじゃないけど……一緒にいても、もう前みたいに笑えないんだ」

電車が来た。風とともに、二人の間に距離ができた。
翔太は一歩も動けずにいた。

「ありがとうね、今まで」
それだけ言って、彩香は列車に乗り込んだ。

雨は止んでいた。
気づけば、空にはわずかに光が差していた。
でも翔太の胸の中では、まだ土砂降りが続いていた。

彼女の傘の匂い、指先の温もり、笑った横顔。
全部、雨のあとに残された水たまりのように、そこにあった。触れようとすれば、消えてしまう。

雨上がりの空に、虹はかからなかった。
ただ、湿ったアスファルトの匂いだけが、翔太のそばに残った。

6/2/2025, 9:35:02 AM