殆どが寝静まって街の灯りも幾分か減ったころ、彼は唐突に「海、行きましょうよ」と俺に言った。
急に言われて驚いたけれど、何しろ自分も海なんて数年間行っていないから二つ返事で二人で車に乗り込んだ。
十数分車を走らせると、微かに潮風が漂ってくる。
車を降りると、ざざん、ざざん。波の音が聞こえた。
砂浜を時々倒れそうになりながら歩く。
靴と靴下を脱いで水に爪先をつける。
ちゃぷ、と微かな水音がして、冷たさがじわりと体に伝わった。
不意に水を掬う音がして、何かと思って振り向くと、手の中に水を溜めていたずらげに笑っている彼がいた。
「海来てはしゃがない奴なんていないでしょ?先生」
そう言って、彼は俺に向かって手の中に溜めていた水をぱしゃりと掛けた。
「ちょっと、」
「ほら、先生!楽しみましょうよぉ~」
そう言って笑う彼に、仕返しでまた水を掛けてやったらからからと無邪気に笑った。
大人気なく二人で数十分遊んだ後は、お互いとても疲れきっていた。
「任務では疲れないんですけどね~…これは、良い運動になりましたぁ……」
「君は触手使うから疲れないでしょそりゃ…」
他愛のない話をしながら車に乗り込んだ。
すると彼は、思い出したように言った。
「あ、またいつか、海に行きましょうよ」
8/23/2024, 11:15:02 AM