Open App

『心の深呼吸』

今日もまた、締め切りに追われている。

スマートフォンの通知を切って、キーボードに向かうけれど、何も出てこない。

家の電話が留守番音声を流している。担当者がメッセージを吹き込む声が途切れ途切れに聞こえる。

ごめんよ、編集さん。
でも、まだデッドラインじゃないと知ってるんだ。
この原稿を渡さないと、後の作業にシワ寄せが行くのも分かってる。
校正さん、印刷所さん、ごめんよ。
作業が徹夜になるかもしれないよね。本当にごめん。

でも、本当に、なんにも出てこない。
焦っちゃダメだ。追い込まれて本領を発揮するタイプじゃないし。

どうしよう、今度こそ本当にダメかもしれない。
いろんな人に迷惑かけちゃう。
どうしようどうしようどうしよう。

​ギュッと目を閉じ、体を丸める。
手のひらの汗が凄い。
ダメだダメだダメだダメだ。
どうしようどうしようどうしよう。
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。

嗚呼――もう、どうにでもなーれ!

​目を開けても、世界は変わっていない。
だけど、何かのスイッチは入った。
実は逆ギレするタイプ。
ふざけんなって思う。
やってやんよ!ぶっ飛ばしてやんよ!
そんな脈絡のない闘志を纏って、キーボードに指を乗せた。

11/28/2025, 9:58:33 AM