海に行きたいんだ、虎雄はベランダで空を見ながら独り言のようにつぶやいた。片手には、いつから持っているのか分からない飲みかけのビールがある。
洗濯物が風にゆられてはためいている。
虎雄と私はずいぶん海に行った。行って砂浜を並んで歩いた。取り留めもないことを取り留めもなく話していると、話しながら、歩きながら、夢をみている気がしてくる。
二人して、このままどこかへ迷い込んでしまおうか、手を繋いだまま虎雄は私をもう片方の手で抱き寄せた。
この人は、かわいそう。かわいそう。
自分の手が、虎雄に巻きついて離れなくなりそうな気がして慌てて力をゆるめた。
大丈夫。大丈夫だから。
誰に言うでもなく、私は心の中で呟いた。
11/28/2024, 10:09:06 AM