【パラレルワールド】
私は同時に2つの人生を生きている。と言っても、片方は夢の中でだが。
学生時代に成功を収め、画家として活動する私。
夢の中では、芽が出ずとも、いじめと家庭内暴力でぼろぼろになりながらも、絵を好んで描き続ける私。
夢でも絵を描くのだから、よっぽど好きなのだろう。あまりの芸術家ぶりにいつも笑ってしまう。
最近制作しているのは大きな作品で、脚立を使って壁にかけたキャンパスの前に腰を据える。色を乗せながら、今日の出来事を振り返るのが、私の至福のときだった。
夢が現実なら、どれほど辛かったか。
起床時から階下で聞こえる父親の罵声。喧嘩をする両親の隙間を縫って登校。黒インクをぶちまけられ、バラバラにして黒板に貼られている渾身の一作。傷だらけの体に刺さる好奇の目。それを更に増やす父親と、無関心の母親。布団に入っても、嫌な思い出がめぐるばかりで寝られないから、現実のことを必死に考えて眠って……こちらに戻ってきた。
辛いリアルな夢も、全てが創作の糧になる。感じた心と身体の痛みを大きなキャンバスにぶつけていく瞬間が、私は何よりも好きだ。経験が作品になるその様こそが、私の命だから。
腕を伸ばしたところで、ぐらり。足場にしていた脚立が倒れる。危ない__と思った時には、インクと一緒に床に倒れていた。白く、どこまでも伸びるように思えるアトリエの天井を見ながら、私は。
「痛くない」
ああ、そうか。こっちが"夢"なんだ。こちらの世界で痛みを感じる機会がないから分からなかっただけで。ずっと、そう思い込んでいただけで。
パラレルワールドを夢見て逃げ込んでいただけだったのだ。
夢が現実なら、どれほど良かったか。
9/25/2025, 7:13:05 PM