このえ れい

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 「チキン」と呼ばれ、バカにされていた。立派な翼があるのに、それは「飛ぶ」という機能を持っていない。バタバタさせてみても一瞬ふわっと浮くだけで、およそ飛ぶことは叶わない。「跳ぶ」という範疇にも入っていない。同じ飛べない鳥であるが体が大きくて足の速いダチョウや、泳ぐことができるペンギンとは違い、ただ地を歩くことしかできない。
 そのニワトリは、己の限界を知っていた。知ってはいたが、納得はしていなかった。周りの仲間たちは、何も考えずに餌を食い、地を徘徊し、たまに小競り合いをするだけの無能だった。彼は毎日絶望していた。
 誰がチキンだ。鶏肉になるしか道がない、なんて言わせない。俺だって飛んでみせる。限界なんて知るもんか。
 決心して、彼は飼い主の目を盗んで鶏舎から脱走した。周囲に人家もない田舎なので、彼を見咎める人間はいない。やがて、絶壁へたどり着いた。地面から飛び立つのは無理だが、高いところからなら、その勢いで飛べるかもしれない、と考えたのだ。
 彼は飛んだ。躊躇せず飛んだ。今までにないほど翼を高速で動かした。
 やった! 飛んでる!
 空が近い。体が浮いている。風を感じる。何という開放感。
 彼が感じた喜びは、ほんの一瞬だった。重力が彼を捕らえた。
 必死に翼をバタつかせるが、およそ間に合わない。彼はそのまま落下していった。
 抜け出してきた鶏舎が逆さまに見えた。飼い主がきょろきょろしている。彼を探しているのだ。
 彼はその姿に心の中で話しかけた。
 ──あばよ。俺はやっぱり、飛べないチキンだったよ。金になってやれなくて悪いな。
 彼は己の限界を知った。己の不甲斐なさも知った。一番愚かなのは、他ならぬ彼自身であることも、また悟ったのだった。

11/12/2023, 7:25:01 AM