「私のどこが好き?」
「……いきなり何だよ」
「いいから。答えてよ、5秒以内」
ごーお、よーん、と暢気にカウントダウンが始まる。僕は手にしていたカレースプーンを置いた。そして口を開く。
「5秒でキミの好きなところを語りきれないよ」
僕のこの返答は予想もできなかったようで。彼女も黙ってスプーンを置いた。傍にあったお茶の入ったコップを手にとって一気に飲み干す。そんなに勢いよく飲まなくてもいいのに。そして彼女はごちそうさま、と言って自分の食器をそそくさとキッチンのほうへ運んでゆく。自分でふってきたのに、照れ隠しするとか、どういうつもりなんだ。
「いいの?続き、聞かなくて」
投げかけるとキッチンからそろりと顔が出てきた。聞きたい、という顔をしている。単純だなあ。
「優しさ、言葉、癒やし、雰囲気、温もり、笑い、元気、勇気、ときめき」
「……なぁに、それ」
「みんなどれも、貰っても形に残らない。でも与えられないと僕が僕じゃなくなる。それをキミが定期的に補ってくれる。だから好き」
「そう、なんだ」
「うん、そうなの」
彼女はさささ、とまたこっちへ戻ってきて僕のコップにお茶をついだ。お皿かたすね、と言って僕の食事の済んだ食器たちを持ってまたキッチンへと消えた。こういう気づかいができるところも、好きの要素の1つを形成しているんだ。そういうの総称して何ていうか、分かる?
愛だよ。これまた目に見えなくて、形にならないという厄介なもの。でも僕ら、ちゃんと与え合ってるの分かってる。姿かたち見えなくても、キミからの愛は毎日感じてる。
9/25/2023, 5:41:33 AM