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《夢が醒める前に》

 夢を見るのが、好きだ。
 念じるだけで空を飛べたり、極彩の花畑を一斉に咲かせてみたり、参考書まみれの狭い部屋を、お姫様みたいな綺麗な部屋にしてみたり。
 とにかく自分の望む好きな世界を創り上げ、自由気ままに満喫できる美しい世界に在れる。
 私の現実は、あの人がいる限り息をするのも苦しかったから、眠りにつき、夢の世界へと誘われるそのひと時を私は愛した。

 今日の夢は、特に良かった。
 私が現実を憎むに至った最たる原因を、せめて夢の中だけでもと排除した。
 鍵で閉ざされた自室の扉を開け、階段を降り、台所へと向かって刃物を選ぶ。
 握ってから、一番刃渡りが長い物だと気付いて少し笑った。
 居間の掃き出し窓を引き開け、そして庭で洗濯物を干しているいつもの背中に――ほんの一瞬だけ息を止めてから、真っ直ぐに突き立てた。
 短い叫び声と、肉と骨の分厚い感触が不快だった。私を振り向いた瞳は、相変わらず濁っていて醜い。
 やがてその背は崩れるように倒れ込み、地面の上でピクリとも動かなくなった。

 ようやく、私の世界から消えてくれた。
 これこそが一番に望む、私だけの世界だった。

 胸に悦び満ちていく。羽根のように軽い私の心臓、夢の世界でしか得られないもの。
 愉しい、悦ばしい。この至上の夢から目醒めたくない。
 現実を取り戻してしまえば、この酩酊感にも似た幸福は途端に霧散してしまう。
 だから私は最高の気分のまま、二度と目醒めないようにと自分の胸へ刃物を突き立てた。

 夢なのに、すごく痛いな。

3/20/2026, 11:23:50 AM