たぬたぬちゃがま

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どうして、こうなった。
勉強を教わっていたはずなのに、どうして、こうなった。
どうして私は、彼に押し倒されているのか。


きっかけは神社だった。担任がテストで赤点を取ったら追加課題を出すとか言うから。それが30cmはあろうプリントの束だったから。
そこで私は学業の神に気に入られているであろう成績優秀者の彼を連れて、神社へ乗り込んだのがつい3日前。


「追い込みかけたいから、部屋行っていいか?」

そう言われて赤点回避のためならばと部屋に案内した。私の部屋を見て「へー」とか「ふーん」とか呟いているのを聞いて、やればできる子なのはこの部屋からもわかるでしょ?と言ってやったのがつい30分前。


どうして、こうなった。
なぜ、私は彼に押し倒されているのか。

「おい、聞いてるか?」

彼に話しかけられてハッとなる。慌てて胸を押し起きあがろうとするがびくともしない。こんなところで自分の非力さを実感したくなかった。

「ねぇ、なんで、こんなこと、」
「好きだ。テストが終わってからでいい。付き合ってくれ。」

祈るような、すがるような、掠れた声だった。おそるおそる彼の顔を見上げると、眉間に皺をよせて、顔を真っ赤にした彼がいた。

「うそ、だ。」

私の呟きに彼は泣きそうな顔になる。

「嘘じゃない。好きだから神社にもついていった。試験の山と真剣に考えた。俺、本気なんだ。」

信じて。

絞り出すように彼の口から出た言葉は、私の心に深く突き刺さった。
私の耳はおそらく真っ赤だ。顔も負けないくらい熱い。意識してない時は何も思わなかった言動が、途端に恥ずかしくなる。
だって私は彼を神社に誘って、山を張ってもらって、家に招待して——


あれ?私にとって彼ってなんだろう。
友達?神社に誘ったのも、部屋に呼んだのも、異性は彼が初めてだ。
あれ?私はなんで彼を誘ったんだろう?

「……返事、してくれよ。」

彼の掠れた声が脳を痺れさせる。こんな声出せるなんて知らなかった。
私は何も考えずに彼に手を伸ばし、頭を抱き抱えた。彼が私の名前を呼んだが、それには甘さがふんだんに含まれていた。
私の体は彼を受け入れることにしたらしい。抱きしめた頭を優しく撫でている。
触れたところが熱い。嬉しくて仕方ないはずなのに、心がついていっていない。処理が追いついていないのだ。
彼と私は熱く見つめている。心は処理落ちしているのに。


唇が触れ合った瞬間、私は考えるのをやめた。
心のキャパシティはとうの昔にオーバーしている。
私の体は彼の体が捕まえた。心を捕まえるのは彼の心に任せよう。私の彼への気持ちは悪い物ではないのだから。

もうどうにでもなれ。
ふと、おみくじの恋愛欄に【身近にいる。動くのを待て。】と書かれていたのを思い出した。




【心だけ、逃避行】

7/12/2025, 8:25:33 AM