猫宮さと

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《あじさい》
かつての相棒が私の様子を見に来てくれた。
渓谷に咲いていた、とあじさいを手にして。

園芸用によく見られるそれとは違い、たくさんの蕾の周りにぽつりぽつりと咲く様が可愛らしい。
滝が落ちる涼やかな光景を思い出しつつ、青や白のあじさいを眺める。

「移り気」「浮気」なんて、色の変わり具合を揶揄するような花言葉が有名だったけれど。
私は、異国の医師の恋愛話から来た「辛抱強い愛」が好きだなぁ。
遠く離れ離れになっても互いを想い続けた医師と妻。
自分はそんな風になれるかな。

決して出会うことのない彼。遠くから見ているだけだったあの頃ならばそんな幻想も抱けたけれど。
隣に立てる喜びを知ってからは、離れる怖さがムクムクと大きくなる。
まるで光を浴びて出来る影のように、光が強ければまた影も強さを増す。

ダメだダメだ!
両手で自分の頬をパチン!と叩く。
金属製の家具の中、青いあじさいが目に映る。

大丈夫。彼は本当に辛抱強くて優しい人。それは絶対に変わらない。
ならば、私の想いも変わることはない。
彼の強さを見習って、私も強くあろう。

気合を入れ直して立ち上がり、部屋を出る。
白いあじさいが揺らめいた気がした。




ヤマアジサイの青と白のイメージで書かせていただきました。

6/13/2024, 11:42:32 AM