夜兎

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部屋の中を見回してみる。
入浴に行く前に居たはずの恋人の姿が消えていた。

窓が開けられカーテンが風で揺れる。
近付いてベランダを確認すれば捜し人の後ろ姿。哀愁を感じる後ろ姿に声をかけるべきか悩み立ち尽くす。
意を決してサンダルを履き隣に立った。

「もしかして、月を見てたの?」

「そう。中秋の名月だから見たくなってさ」

宵闇の中、輝く月を見上げる。
隣では彼が頬杖をつき煙草をふかしており、二人の間に流れる沈黙が心地よい。

まだどうかこのまま。
二人の時間が終わらないようにと月に願った。








9/14/2025, 11:08:03 AM