あかるあかり

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『星』

 ひとつの星はシリウス。そして七つの星。
 一糸まとわぬ乙女は双つの甕から水をそそぐ。大地に、そして海に。

 第十七のカード。希望は夢からうまれ、夢は夜に育まれ、夜は星に祝福される。

 結論としてひらいたタロットは正位置【ⅩⅦ 星】だった。

「導きの星が見つかる。希望を信じてゆけばいい」

 その言葉を聴くのは彼女の猫だけだった。足許で丸くなっている。耳が時折りぴくりと動く。

 占いの結果は出た。ひらいたカードと札山をまとめて片づける手が一瞬止まった。
 よい結果だった。不満はないはずだ。だが何故か心がざわつく。すとん、と腑に落ちるものがない。占いは無意識を心の意識できる領域すれすれまで浮上させる行為だ。だから、このようなざわめきを感じているとき、納得感(あるいは諦念でもいい)がないとき、占いは成立していない恐れがある。

 落ち着かない苛立ちを覚えながら彼女は猫に目を落とした。深い理由はなかった。だがそこで彼女は見た。猫のあごの下の、一枚のタロット。

 これか。
 得心がいく。一枚でも欠けた状態で占ったなら、もちろん占いは成立するはずもない。

 すっとカードを猫のもとからひきだす。
 猫はちらりと見あげてきたがそれだけだ。

 彼女はもう一度、占いを始めた。

 大アルカナ二十二枚。小アルカナ五十六枚。
 すべての役者が揃って、物語を展開させる。
 物語が幸せに帰結しても、バッドエンドだとしても、受け容れる。

 手際よくタロットを混ぜ、スプレッドに配置。囁くような静かな指でカードをめくる。

 先ほどとは違うカードが次々現われる。
 そして最後、結論の位置。
 めくって現われるのは。

【ⅩⅦ 星】

 彼女の瞳が笑った。
 辿りつくところがたとえ同じであっても、さっきとは較べようもない満足感で、彼女は結論を受け容れる。

「導きの星が見つかる。希望を信じてゆけばいい」

3/11/2025, 11:33:58 AM