どうしてもいやだ。やりたくない。練習なんてしたって無駄だ。だって、どうせぼくにはできないはずだから。
転んだら痛いだろ?怪我したらどうするんだよ。痛いじゃんか。怖いよ。だからやりたくないんだ。自転車の練習なんて。
お父さんも、お母さんも、絶対すぐに乗れるよ!できるって!なんて簡単に言うけどさ。怖いんだから仕方ないじゃないか。
だけどこれ以上先延ばしにできなさそう。
弟も自転車を手に入れたらしい。
僕より下の学年の子達が乗れてるの見るのだって悔しいのに。弟に先を越されるなんて、さすがのぼくでも兄としてのプライドが許さない。
怖い。ペダルに足を乗せてみるけど、ふらふらする。こんなの乗れるわけないじゃないか!一体全体どうやって皆んな転ばずに漕いでるんだ。あんなに簡単そうに見えるのに!やっぱりできない…。
それでも隣でお母さんが背中を支えててくれるから少しペダルを踏んでみる。もう一つの足も乗せてみる。回る。ペダルを漕いでいるぞ。
前見て!前!前!お母さんの声にハッとして顔をあげる。進んでいる!ちょっと嬉しくなった時にハンドルがぐらぐらっとしてバランスを崩してしまった。
自転車は倒れた。ふくらはぎに鈍い痛みが走る。ぼく自身は転ばなかったけど、さっき少しだけ嬉しくなった気持ちが折れそうになる。
すると、道の反対側からフラフラしながらペダルを漕いでいる弟が来た。お父さんが身体を支えながら並走している。見て!ボクちょっとのれてる!て声が聞こえた。いやだ、負けたくない。ぼくはもう一度ペダルに足を乗せた。
それから何回も自転車は倒れたけど、ぼくは挑戦した。今度はお父さんがぼくに付いてくれている。でもお父さんはちょっといやなんだ。弱音を吐くな!これくらいでビービー言うな!ほら漕げ!いいから!って大きな声で急かしてくるんだもん。自転車を押すスピードも超速い。止まれなかったらどうするんだよ。倒れたらすごく痛そうだ。
でも、ぼくは気づいた。お父さんの超スピードだとペダルが漕ぎやすいんだ。ハンドルもふらふらしない。前を見るだけでグングン進んでいく。
あれ?もしかして、ぼく、乗れてる?
乗れてるぞ…!!
もうお父さんは手を離していた。ほら!乗れたじゃん!お母さん見て見て!って大きな声でお母さんを呼んでいる。お母さんもビックリした顔をしている。乗れてるじゃん!て拍手してくれた。
もう、ぼくは自転車名乗れるようになった。ブレーキだって完璧だ。こんなに嬉しいことはない。だからぼくは口をへの字にしてる弟に言ってやったんだ。
「自転車なんて簡単さ。全然怖いことなんかないよ。」
3/16/2024, 6:05:10 PM