はた織

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 私のおばあちゃんの魔法は、いつ聞いても面白い。
「フラワースペルって言うんだよ」
 そう言って、私たちの会話によく花を咲かせた。
 マリアマリリス、カメリアリスト、サフラミー、イリススマイル、アマランスハー、サントオレアオン、アシパトランカ、アリノヒフキ。
「そして、ハーツィーズ」
 いつもの最後の呪文を唱えて、おばあちゃんと私の手で3つのハートの形を作った。おばあちゃんの丸い右手の下に私の丸い両手を添える。本当に花が咲いたようで、私はこのフラワースペルが大好きだ。何より、おばあちゃんともっと仲良くなれた気持ちになる。
「ねえ、おばあちゃんのとっておきの魔法を教えてよ」
「とっておきの魔法は秘密だよ。りよちゃんにも教えられないの」
「どうして?」
「本当に想いを込めた魔法は、本当によく見てよく聞く人にしか見えないんだよ。うっかりと教えちゃったら、魔法が台無しになるでしょう?」
 今までそんな人と出会えたかと尋ねたら、それも秘密と笑って返された。私もおばあちゃんがいう本当によく見てよく聞く人になれるかなと夢見た。
「そういえば、庭の中でやけに背の高い花を見つけたよ」
「へえ、何色の花だった?」
「青だったよ。他の花と違って茎の長さも色も違うから、すごく目立ってた。道端に咲いていたら、思わず足を止めちゃうかも」
 おばあちゃんは上機嫌だ。口に手を添えて噴き出しそうな笑みをくすくすと堪えている。
「鴎も寄ってきそうなぐらい綺麗でしょ」
「多分そうかも」
 あの時は適当に返事をしたが、後々になって思い返してみると鴎の意味が分からない。鴎もおばあちゃんのフラワースペルのひとつだった? それとも、あの青い花がおばあちゃんのとっておきの魔法?
 何の花かと思い出すも名前が出てこない。真っ直ぐに茎を伸ばす青い花。どの花よりも高くて真っ直ぐに美しい。空に向かって咲く花びらは、空の青さよりも濃かった。空を見上げる黒目のようなめしべと目が合った気がする。ぱちぱちと瞬いていたようだった。わたくしはわたくしの花を咲かせます。そんな声が聞こえた。名前を尋ねても、貴方はもう知っていると返された。
「ごめんね、分からないや」
 私はお詫びに、ハーツィーズのフラワースペルを手で作った。正直でいい子だねと、矢車のような青い花は微笑んでくれた。
                 (250407 フラワー)

4/7/2025, 1:45:12 PM