ゆめ。

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※これまでの投稿(世界線)のもしもの話



「ふぅ…。今日も一日仕事頑張ったぁ!」

 私ってば偉い!なんて背をぐーっと伸ばして呟くとお疲れ様、今日は特に大変だったよねぇ、という言葉が隣から帰ってきた。大変…、そう、大変だったのだ。上司に仕事を押し付けられるわ後輩くんのミスが今日に限って連発するわで。仕事する傍らにフォローすることが非常に多い一日だった。ちなみに隣にいる人は私の頼れる先輩。何だかんだで入社時からずっとお世話になっている。

「あ、そういえば羽依ちゃん、傘もってきた?」

 今日雨だって予報だよー、大丈夫そう?先輩の言葉が耳をすり抜ける。え、雨?なんで雨?行きしなに見た天気予報は今日晴れだったじゃん。傘なんてないんですけど。冷や汗が流れる。家から会社まで割と距離があるんだよね…。

「ふふっ、羽依ちゃんって面白いほど分かりやすいね」

 アッ!別に悪い意味じゃないからね?!!焦ったように手を前に突き出し、否定する先輩。いや先輩も十分分かりやすいと思いますけど…、…というのは、私が出来る後輩なので苦笑いで留め、黙っておこうと思う。決して先輩のバックにいるセコム兼彼氏がいるからやめときうとかそういう阿呆みたいな理由ではない。…決して。

「と、兎に角!この傘、羽依ちゃんに貸したげる」

 すっと差し出されたそれは本来ならば先輩が差して帰るはずのもので。流石に悪いですよ、と傘を押し返せばいいのいいの!と更にずいっと押されてしまった。なんて明るいんだ…。土砂降りの天候には不釣り合いの表情である。

「だって〜、彼氏と相合傘して帰れるもん♪ほんと天気様様って感じ!」

 あぁ、なるほど。上機嫌な理由はそういうことか、とルンルン気分の先輩をよそに一人で納得する。この先輩の彼氏、このホワイトな企業に勤めているくせにバカみたいに多忙なのだ。少しは可愛い先輩の身にもなりやがれコノヤロウ、と妬み半分で思った回数はきっと両手で数え切れないほど。本当に彼氏さんと一緒に帰る口実ができたのが嬉しいのもあるだろうが、きっとそれだけじゃない。私が借りるのに抵抗がないように配慮してくれたに違いない。この先輩は、結局のところ憎みきれないただの優しい人なのだ。

「…分かりました、では有難くお借りしますね。明日に必ずお返ししますので」

 お礼の菓子折りと一緒に、という言葉は飲み込んだつもりだが、付き合いの長い先輩のことだ。恐らく伝わってしまっただろう。GODIVAのチョコ、期待してるからー!!歩き出した背中に届いた彼女の言葉がまさにその証拠である。てかGODIVAて。普通に高いチョコじゃん、明日までに届くか??……まぁ、速達で頼めばなんとか……?


この時の私はまだ知らない。
謎に工事だらけの帰り道に絶句し、通行止めになっている場所を避けるため物凄い遠回りをすることになるなんて。

その道すがら、道路の隅っこで小さく蹲っている黒髪の子に出会って一緒に暮らすことになるなんて。

まさかその少年が、将来黄金色の髪に変化して誰もが知る"彼"になるなんて。全く思いもしなかったのだ。



      『不思議な傘が導く未来と過去』

6/2/2025, 2:36:49 PM