さび抜き

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9/10「喪失感」

センパイがいなくなった。

センパイの後、俺の隣にぽっかり空いた穴。
それを見て俺たちはみんな泣いた。

センパイはいつも俺たちの少し前にいた。
はみ出しものと言われようと動じず、
小さな体で自分を貫き続けた孤高のひとだった。


センパイは俺たちより8つほど年上で、
この組織の立ち上げメンバーのうちのひとりだった。

立ち上げメンバーは全部で20人いたらしいが、俺は数人にしか会ったことがない。
組織が大きくなるにつれ、ひとりふたりと抜けていったそうだ。
そのうちみんな抜けてしまって、とうとうセンパイだけが残された。

抜けてしまったひとたちの後任を務めるため、俺と同期たちはやってきた。

俺たちはわれ先にと競って顔を出そうとした。
センパイはずっと変わらない姿で、俺たちを迎え続けた。
そして6年ほどかけてこの組織は完成を迎えた。


それから長い月日が流れ、この組織は非常に優秀な運営がされていた。
俺はセンパイの隣で、センパイよりも大きくなった。

センパイは隣の俺に度々こぼした。
オレみたいな古いやつがいつまでもいたってしょうがないのに、
オレもあいつらと一緒に抜けてしまいたかった、と。

だけどもう俺たちとセンパイはずっと月日を共にした。
最近大型新人を迎えた、総勢30人の仲間だ。
ずっとこのまま一緒だと思っていたのに。


センパイに異変が起きたのは繁忙期のころだった。

毎年、寒い季節の終わりになると、粘着質な取引先の大群に悩まされる時期が来る。
今年の相手は特に手強く、センパイは山を越えられなかった。
そのうちに白く輝くばかりだった姿に翳りがさし、
体の一部が働かなくなってしまった。

センパイを気遣ってか、組織には度々メンテナンスが入るようになった。


しかしその日は突然やってきた。

ある日のメンテナンス中。
何の前触れもなく、組織に激震が走った。襲撃か!?
痛みの後に、初めて感じる強い眠気が襲ってきた。
抵抗虚しく俺たちは皆一斉に意識を失った。


どれくらいの時間が経ったのだろうか。

感覚が戻ってきた時、センパイはいなくなっていた。


空っぽになってしまった、センパイがいた場所。
大きな喪失感が組織を包んだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お疲れ様でした。無事に抜けましたよ。」
「あぃあとうございぁす」

ティッシュに包まれて掌に乗せられたとても小さな歯。
虫歯になってしまって少し汚いが、今までよく頑張ってくれたものだとしみじみ見つめる。
1本だけ子供のうちに抜け切らなかった乳歯をとうとう抜いたのだ。

「持って帰りますか?」
「いらないかな…」

あ、でも、小さい時に抜けた歯、カーチャン集めてたな…
実家にまだあるかも。

「やっぱりください。昔の乳歯と一緒にしときます」


歯物語~fin~

9/10/2024, 3:43:59 PM