今日、坂本休みだってよ。
言ったのは多分、坂村と俺と同じサッカー部の木村だったけど、雑踏の中だったから確証はない。興味もなかった。
「えっ」
嘘、やっぱり俺も興味が出てきた。俺の後ろの席の川辺が、デカい声で反応した。なんで、と木村に理由を訪ねに行った。木村の席は廊下側だから、川辺は俺に背を向けることになる。
……窓側の席は、当たり前だが教室で一番暑い。電気代をケチってクーラーの温度もそう低くない。授業中でも汗が滴るこの席が俺は死ぬほど嫌いだったが、このときばかりは感謝した。
汗で透けた川辺のブラは、水色だった。
川辺凛。サッカー部のマネージャーをやっていて、ウチのクラスで一番可愛い女子。勉強もそこそこできてクラスの中心にいる女子。
好きな人が休みで失望を1ミリも隠せない女子。
「来週さ、坂村の誕生日じゃん」
そんでもって、俺のことを良き友人だと思ってる、女子。
「それでさ、誕プレ、あげたいんだけど」
昼休みにわざわざ俺と話すために屋上まで来て、切り出した話題がこれだった。
男と二人きりでも噂が立たないほどに、川辺が坂本を好きなのは周知の事実で。
俺と川辺がただ部活が同じだけの良き友人であることも、誰もが知ってる話で。
「あんたさ、坂本と仲いいじゃん。だから、明日のオフ、暇でしょ。買い物付き合ってよ」
俺は川辺より身長が10センチ以上高いから、こいつが第一ボタンまで外していれば、角度によっては谷間が見える。存在がエロいのはこいつの罪だ。俺の不純な心が悪いわけじゃない。
「昼飯ぐらい、奢るからさ……ねえ、」
凝視するのが許されるような関係ではないので、バレないように視線を落とした。
「ねえ、聞いてないでしょ」
「んー?」
温い夏風がポロシャツの裾をわずかに揺らす。それで遠くを見たら、お手本のような積乱雲が地平線に浮いていた。
なあ、知らねぇだろ。
俺、お前のこと好きなんだぜ。
「聞いてるって、全部」
あーあ。
ずっとこのまま、ここにいてくれねぇかな。
……無理か。無理だな。
【ずっとこのまま】
1/12/2024, 6:15:04 PM