薄墨

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壁抜けバグって危ないんだなあ…。
落下の浮遊感を感じながら、しみじみ思った。

壁バグを試みて、足下の床からすり抜けて、無限に落下を始めてしばらく経つ。
正直、どれくらい経ったのかは分かってない。
僕の横では、一緒にすり抜けた猫が、綺麗に着地できるように地面に備えて、くるくると回転し続けている。

目の前も、足元も、上も、下も、右も、左も。
すっかり真っ黒な漆黒に覆われている。
落ちる時は上にかろうじて見えていた床と地面も、今や見る影もない。

落ちる
落ちる
落ちる

落下のスピードは全く衰えない。
浮遊感と重力がふわふわと気持ち良い。
猫の高速回転も、最初は可哀想な気がしたが、ここまで落下し続けていると、コミカルで面白い。

鼓膜にはずっとノイズが響き続けている。
どこかで、ゲーミングに輝く長方形などとすれ違った気もするが、もう随分前の話の気がする。

どこまで続いてるんだろう…
そう思いながら下を覗く。
まだ地面がある気配はない。
地殻まで行くんだろうか?
でもここは漆黒で、壁も遮りも全くないような気がする。

それにしても。僕は思う。
なにを失敗したのかな…僕

僕は超心理学者だ。
幽体離脱とそれを起こす患者たちの心理について研究していて、つい最近_落下し始める時を基準として、その時からのついさっき_に、幽体を再現する試作機を完成させて、試していたのだ。

幽体というものの特徴の一つに、壁をもすり抜けられるというものがある。
そこで僕は、まず幽体としての特徴と条件である「壁をすり抜けられる」という状況を作ってみようと考えた。
それから、幽体の特徴を一つ一つ再現していき、研究を深めようと思っていたのだ。

壁をすり抜けるという原理を再現するため、僕が目をつけたのが、壁抜けバグだった。
つまり、自機(自己の肉体)の当たり判定をなくして、擬似的に壁を抜けようと考えたのだ。

…その結果がこの落下である。
いやあ、そんな都合良くはいかなかったか…。ゲーム内の原理を使ったのが、よくなかったか?

地面が見えないのをいいことに、僕は考え込む。
横で愛猫がくるくるくるくると回り続けている。

まあ、ゆっくり考えよう。時間は結構たくさんありそうだし。
僕は漆黒の中で腕を組み、考えに耽ることにした。

6/18/2024, 12:14:43 PM