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“カレンダー”


 カレンダーを貰った。軍人の執務室に飾るには、あまりにも可愛らしすぎるパステル調のイラストが散りばめられた壁にかけるタイプの月めくりの大きなカレンダーだ。
 思い立って立ち寄った店で手帳を買った際に、ニコニコと笑う良い歳の店主に押されてつい受け取ってしまったが、店主も店主だろう。

 こんな無骨で無愛想でがっちりと軍服に身を包んだ大男に、こんなものを押し付けるなんて。とはいえ、捨てるのも忍びなくどこに飾れば一番違和感がないだろうかと部屋を見回す。勲章やら賞状やら、色々と書き込まれたホワイトボードやら上着やらが厳めしくも掛けられた壁にはそもそも悩むほどの場所がなく、諦めて机の脇の空いていたスペースにかけることにした。
 かけてみれば案外しっくりくる様な気がしてぱらぱらと捲ってみる。どうやらこのカレンダーに描かれたキャラクターたちにはそれぞれ誕生日が設定されているらしく、所々に赤文字でハッピーバースデイの文字が踊っていた。なるほど、こういう使い方があるのか。
 
 徐ろにペンを取り出して、思い出せる限りの知り合いの誕生日に丸を入れていく。数ヶ月先の日付に丸をつけながら、明日にでも死ぬかもしれないと思いながら生きてきた日々を思い出す。何ヶ月も先の誰かの誕生日なんて話をする希望も余裕もなかったけれど、今はそれができる様になったのだ。
 この先もずっと出来るように、この沢山書き入れた丸の日を無事に迎えることができるように、少しだけ祈りを込めて丸をつけていく。
 たった数分でこのファンシーなカレンダーは随分と部屋に馴染んだ気がする。いや、カレンダーが部屋に馴染んだのではなくて、この部屋がカレンダーの雰囲気に馴染んだのかもしれない。
 何となく良い気分になって、どっしりとした椅子に腰掛ける。悪くない。可愛らしいカレンダーも、平和な毎日も、きっとこれからずっと当たり前になるのだ。

9/11/2024, 12:51:56 PM