G14(3日に一度更新)

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『ささやき』『big love!』『どこへ行こう』


「ついに来たぞ!」
 俺は、とある商店街の入り口で、感慨にふけっていた。
 目の前にあるのは一部の界隈で噂されている場所、『恋人通り』。
 文字通り、恋人に関する伝説がある商店街だ。

 名前こそセンスがないが、効果は折り紙付き。
 どんなにモテない人でも、そこに行けば恋人が出来ると言う伝説のパワースポットである。
 ――と、ネットに書いてあった。

 ネットでしか噂されてないが、多分信じていいはずである。
 多分……

 そんな場所に、なぜ俺がこんなところへ来たのか……
 もちろん恋人を作るため。
 それは一週間前に遡る。

 その日、俺はずっと気になっていた女子に告白した。
 だが結果は玉砕。
 落ち込んだまま家に帰った俺は、現実逃避にネットに逃げ込んだ。

 次の日も学校を休み、アングラな掲示板に入り浸っていた時、俺はとある文言を見つけた。
『どんな人間でも、恋人ができる場所があるらしい』

 愛に飢えていた俺は、すぐに飛びついた。
 書き込んだ奴から聞き出し、場所を特定。
 なけなしのお小遣いを使い、
 こうしてやって来たのだ。

 とはいえだ
「さて、どこへ行こう……」
 場所を特定してすぐに来たので、この場所の事を何も知らない。
 書き込んだ奴も、自分では来たことが無いと言っていたので、それ以上の事は聞けなかった
 具体的に何をどうすれば恋人が出来るのか。
 俺は何も分からず、途方に暮れていた。

「そこのお兄さん、何かお探しかい?」
「うわあ!」
 突然誰かが耳元でささやき、驚きのあまり体が跳ねる。

「はっはっは、すまないねえ。
 驚かせてしまったかい?」
 振り返ると、そこにいたのは妙齢のお婆さん。
 いかにも『魔女』って感じで、胡散臭い老婆であった。

「まあ、こんなところに来るくらいだ。
 目的は分かる。
 ついてきな」
 俺の答えも聞かず、お婆さんは近くにあった店に入っていった。
 入り口の看板には『big love!』と書いてある。
 騙されているのではないかと疑るが、どちらにせよ行く当ても無い。
 詐欺ならすぐに帰ればいいいと、そのままついて行く事にした。

 扉を開ければカランコロンとドアベルの音。
 店内は薄暗い照明に包まれ、少し入った所にいくつかのテーブルとイスが並べられている。
 壁にはポスターが貼られており、まるで小さな喫茶店のよう。

 本当にこんなところで恋人が出来るのであろうか?
 俺は店に入ったことに、後悔し始めていた。

「待ってな。
 すぐできる」
 お婆さんは、俺をイスに座らせて店の奥へと引っ込んでいってしまった。

 するとすぐに『シュー』と何かを焼くような音が聞こえてきた。
 惚れ薬でも作っているのであろうか……
 第一印象の『魔女』っていうのも、あながち間違いではないのかもしれない。

 なんにせよ、これで恋人のいない孤独な人生とはおさらばだ。
 期待を胸に、俺はお婆さんを待つ。

 しばらく待っていると、お婆さんが店の奥から出て来た。
 手に大きな皿を持って、俺の元へまっすぐやって来る

「どうぞ、これが欲しかったんだろう?」
 そう言って、お婆さんはテーブルに皿を置く。
 皿に乗っていたのは、いますぐかぶりつきたくなるような、ブタの生姜焼きであった。

「ありがとうございます。 
 じゃあ、いただきま――ってブタの生姜焼きかい!」
 俺は思わず突っ込む。
 恋人を作りに来たのに、なんでブタの生姜焼きが出てくるんだ!
 本当に喫茶店かよ!
 俺はお婆さんをキッと睨みつける

「どうしたんだい、お客さん。
 何か不満でも?」
「俺は恋人を作りに来たんだ!
 料理を食べに来たんじゃない!」
 俺がそう叫ぶと、お婆さんは神妙な顔になった。

「よく勘違いされるんだけど、ここはグルメ通りだよ。
 名前が紛らわしいけどね」
「嘘だろ!?
 ここに来れば、恋人が出来て幸せになるって聞いたのに……
 これじゃ詐欺じゃないか……」
「ああ、そこは噂に偽りは無いよ」
「と言うと?」
「おいしい料理は、人生の恋人さ。
 たらふく食って幸せになりな」

4/26/2025, 8:26:39 AM