「いってらっしゃい、気を付けて」
「ミッションをクリアして無事に帰って来られるよう、祈っています」
そう言って、宙へと飛び立つ貴方を見送ったのはほんの数ヶ月前。当然のように続くと思っていた日々はあっけなく失われ、この星は何度目かの戦火に包まれた。貴方が迷わず帰って来られるようにとつけた灯火も、いまや閃光に紛れてしまって分からない。
たった一つ手元に残ったのは小さな端末。
貴方と私を繋ぐたった一つの手段で、私は今日も貴方に偽りのメッセージを送る。
貴方が愛したこの星に、安全な場所などどこにも無くなってしまった。いつか戦争が終わるまで貴方が帰ってこないよう、私はメッセージを送る。
――たとえ暗い星の海のただ中でも、貴方が生きてさえいてくれれば、私はそれでいいのです。いつか必ず、迎えに行きますから。だから今は·····、
◆◆◆
『こちらは穏やかな日々が続いています』
『追加のミッションです。引き続き調査をお願いします』
『承認が下りました。更なる調査と成果を期待します』
彼から届くメッセージは、いつしか事務的な文章ばかりになっていた。
母星とこの小さな船を繋ぐ唯一の手段。その端末から届く僅か数行のメッセージ。
彼からのメッセージがこの船に届くまで、数週間のタイムラグがある。
――君は今、何をしているのだろう?
もう眠っている時間だろうか?
――君は今、何を見ているのだろう?
この星は過酷だが生命の痕跡を見つけたよ。
――君は今、どんな音を聞いてるのだろう?
私は船に乗る前に録音した君の声を毎日聞いてるよ。
·····あぁ、早く帰りたい。
END
「君は今」
2/26/2024, 3:04:10 PM