椋 muku

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「ずっと前から好きでした。あの、良ければ付き合って下さい!」

教室の中から青春の1ページを刻む言葉が聞こえてくる。忘れ物を取りに戻ったっていうのに災難だな、本当。でも考えてみれば放課後の教室なんて(どうぞ告白に使って下さい)って言うくらいありふれたシチュエーションなんだよな。
忘れ物なんてどうでも良くなって玄関へ向かう。玄関に着くと2階の渡り廊下を泣きながら全力で走る生徒が見えた。声を押し殺していることから女子だと推測される。

「あ、まだ残ってたの?もしかして俺のこと待ってた?嬉しいなぁ。一緒に帰ろうね♡」

後ろから壁ドンをされている少女漫画のようなポージング。またしてもコイツ。

「おい、お前また女の子傷つけただろ。言葉は選べってこの前言ったばっかりじゃんか。女子の恨みは怖いんだぞ?」

「えー俺はただ振っただけだし。興味無いってはっきり言った方が良いでしょ、諦めて欲しいし」

はぁ。大きくひとつため息ついてまた何事もなかったように下校する。


「冬になって雪降ったらチャリ禁止とか不便だよなー。しかも道路も滑るしさー」

「何言ってんだよ。お前どうせ毎朝チャリ鍵取り忘れて生徒指導の先生に没収されてんだろ。どうせ乗れないのは目に見えてるんだよ」

雪がチラついてる。それは天気予報を見たから知っていてのことであってそれを承知の上で手袋を忘れてきたのだ。でも今日に限ってコイツは手を繋ごうって言ってこない。

「いやーそれにしても女子からの告白が絶えなくて疲れるわ。あー本当やだやだ」

それにコイツはモテる。本当は自分なんか眼中に無いはずなのに幼馴染ってだけでなんとか隣にいられてる毎日。彼女なんて作らないって言っているくせにコイツもどうせいつか自分を忘れて離れていくんだ、きっと。寂しい。ふとそんな言葉がよぎって混乱する。

「おーい。聞いてんのか?俺モテて困ってるんだけどー?」

そうか、自分は寂しかったのか。自分なんか役に立てないとか勝手に思ってて落ち込んでたのか。

「なぁ?」

耳元で囁く声が聞こえて我に返る。

「ん?あぁ、表ヅラは満点だもんな。彼女の理想も高いから振ってんの?わがままな坊ちゃんだことー」

「なぁ、今日なんか冷たくない?俺なんかした?俺は彼女なんて作る気ないって言っただろ?俺にはお前がいる。逆にお前も彼女なんて作るなよ?俺を置いていくな、絶対」

コイツの言葉にはっとする。多分自分たちは互いに同じことを感じていたのかもしれない。

「もう、全部どうでもいいよ、んなことは。さて、早く帰るぞ」

そう言ってコイツの手を今日だけは自分から繋ぎに行った。コイツの顔は照れくさくて見てないが

「お…おう。」

少し動揺が混じった安堵した声にコイツの考えてることもなんとなくわかった気がした。

題材「寂しい」

12/19/2024, 12:53:31 PM