「海、行きませんか」
「え?」
先輩は暫く目を丸くしていた。
夏休みだから、折角だし先輩とどこかに行って思い出を作りたいと思ったのだが。
俺の発言がそんなにおかしかったか、或いは予想外だったのか。
それとも海に対して何か特別な想いがあるのか。
「…先輩、海、嫌いでしたか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
言葉を濁しながら先輩は俺からの問いに答える。
歯切れの悪い返事を疑問に思いつつ、俺はいつ行くだとかどこの海だとかそもそも海じゃなくて良いんじゃないかとか言った。
「君、勉強大丈夫なの?まだ1年生だからって油断してたら終わりだよ」
「大丈夫です。それに夏休みのうちのたった1日ぐらい、先輩と居させてくださいよ」
「……誤解を生むような発言は控えて欲しいんだけど」
俺が柄にもなく甘えた声でお願いすると、先輩は押しに負けたようで、了承してくれた。
割と満更でも無さそうだったが、伝えたら海の約束を取り消されそうなので黙っておいた。
「言っておくけど、海の中には入らないよ。君すぐ溺れそうだし」
「えっ、溺れませんよ、俺高1ですよ」
「君はそう言って厄介事を引き起こすから心配なんだよ…本当は君と遊んだせいで留年しないかとか不安だ」
先輩は俺に対して過保護すぎる。
そんなに俺は子供に見えるのだろうか…?
「……あの、今年は海」「行かない」
2年後、先輩は大学生になり、さぞ素敵なキャンパスライフを送っている事だろう。
中学時代からの趣味らしかった百人一首を極める為に百人一首サークルに入ったらしく、充実した日々を過ごされているようで何よりだ。
俺はと言えば成績が絶望的で、再び高校2年生をやる事になった。
それに関してはまぁ色々あったのだが、ここでは割愛する。
そして今、また夏休みが来たので先輩を海に誘ったのだが、ご覧の通りこのザマだ。
「すみません、留年の事は本当に申し訳無かったです。じゃ、じゃあ先輩、海以外だったら検討してくれます?海以外だったら」
「駄目、今年は僕の家で勉強会だから」
「勉強………え、先輩の家!?先輩の家ですか!?ねぇ、今」
俺が吃驚して聞き返すと、既に電話は切られていた。
「でも来年は、海へ……行ける、かな……」
将来へのまだまだ不安は拭えない。
でも先輩が俺を気にかけてくれるうちは、努力を怠らない優秀な後輩になっていよう。
・以前執筆した『さよならを言う前に』の先輩と後輩
・一応両方男性ですが、どう解釈しても良いです。感じ取った事が正解
・先輩の方は「後輩(主人公)くんは僕の事恋愛的に好きなのか……??」と思っているが、後輩の方は普通に先輩として慕っているだけ
8/23/2024, 11:51:30 AM