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「折角両親が君に与えてくれたものじゃないか!それを簡単に捨ててしまうなんて、勿体ないじゃないか!」

そうやって私を説得するのは家族でもない、他人。
ただの偶然で、相席になっただけの赤の他人だ。

「私は、何を言われても否定されても構わないんです。それに、アナタは他人だ、私の為にお金を使ってくれた家族じゃないんですから。」
___怒られようと、関係ない。

「君の中で後悔は!?感謝も無いのか!?」

そうやって言われて、自分の目は暗く沈んだ事だろう。
……現に、相手が息を飲んだ。

「何も知らない他人は、すぐにそう。いえ、話しても、理由なんて聞いてくれない。親が大金を使った経緯も、大学受験をした理由も、何もかも親の都合なのに。」

…はぁもう疲れた。叫んでしまいたい、嘆いて喚いて
この命を投げ出してしまいたい。自分の心境を吐いた。
相手が何も言わない間も、この思考は無駄に回る。

…哀しむだろうか、両親は。嗚呼、でもあの人達…
外面だけはいいから、きっと私が死んだとしたら
大切な我が子の死で悲劇の家族を演じるんだろう。

「…怒鳴って、悪かった。」
バツの悪そうな顔をしながら顔を逸らす。
その人は此方に目線だけ向けて問い掛けてきた。

「なぁ、君は、今幸せになりたいと思うか?」

当たり前に、願う事。誰にも聞かれた事がなかった。
それを、聞いてくれた人は、この人が初めてだった。

「初めて、そんなこと、聞かれました。皆、私は両親に愛されてて、幸せで…いいね、って、羨ましいって…」

目を見開いて、呆然と見つめる私はきっと
とても間抜けな顔をしていたことだろう。
だと言うのに、その人はそんな私を見て笑いもせず
穏やかな顔で此方を見つめているだけだった。

「うーん、そうだなぁ…。今の両親と縁を切って、俺の家族…養子にでもなってみるかい?…ま、少し罪悪感と後悔があるだろうけどね。それに、両親が居ないことに慣れれば大した事でなくなるし。君が笑顔になれる場所に、自分を見つけ出せるように、居場所になれるように頑張ると誓おう。」

この手を取れば、幼い頃に捨てちゃった、違うな…
捨てざるを得なかった大切な、好きな事を好きって。
そうやって、笑って言える、私になれる…?

お母さんや、お父さんみたいに、怒ったりも、
否定したりもしない、かなあ…?

声に出ていたんだろう。「気にしなくていいんだ。君が君らしくいれる場所になると俺は言ったろう?」なんて
暖かい言葉、優しい言葉、柔らかい表情

「…きっと、大変だから後悔すると思いますよ。」
私の返しに、とても嬉しそうに笑ってくれる人。
この人が私を救い出してくれると信じて。

…あぁ、今なら、私、自分の為に願える気がする。
「夢を描け」って言われてる様な気がするの。

やさしいひと、あたたかいひと。教えてほしいの
「あなたのお名前は、なあに?」
そういえばそうか、と口にした後に告げられた
「俺は太陽、山永太陽だよ、君の名前は?」
あたたかい人の名前は、あたたかいのね。
やまなか、たいよう…これから私を救う名前。
「私は日月、見海日月って言うの。」
真似をした私を気にせず反芻して呼んでくれた名前
「みうみひつき、か…良い名前だな」

あぁ、ただ名前を呼ばれただけでこんな嬉しいなんて。

5/9/2025, 6:57:45 PM