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夜の荒野を駆けていく。宵闇に紛れている彼の姿は全身が黒一色。誰にも悟られるこのなく任務をこなす影の使者。毎夜血に塗れてなおこうして心を保っていられるのか。
それはありふれた日常を享受するということだった。
ある日、彼はいつもの如く雇い主の命じたとおりに指定された相手を殺そうとしていた。そこで見たありふれた日常が彼に心を取り戻させた。
いつか自分のお役目が終わる日が来る。その時こそあの光輝く日常を享受できるとそう勘違いしていた。
その出来事から数十年が経ち彼に引退の時期が訪れた。まだ彼は夢を忘れてなく遂に終わると意気揚々と最後の任務へと繰り出した。
いつもの通り指定された土地へ行くとただの空き地だった。不思議に思って地図をかくにんしていると不意に風切り音が聞こえて来た。
咄嗟に自分のクナイで弾いた。そこでようやく飛んできたものが分かった。それは自分が幼少の頃から見慣れて来た里のクナイだった。彼は理解した。
なぜ里に老いた忍びがいなかったのか。
それはこうして里のものたちで処分しているからだったのだ。
だが理解したところで手遅れだった。
彼の老いた体では2回目の攻撃はかわせなかった。
クナイが心臓に突き刺さる。
大量に口から血を流し彼は血の海に沈む。
結局は自分の業からは逃れられなかったのだ。
彼は最後に霞む視界で夜空を仰ぎ見て一つのことを願った。彼を今まで照らし続けていた月は月蝕によって影もなかった。
お題月に願いを込めて
ここまで読んでいただきありがとうございます。
更新が遅れてすみません。

5/28/2024, 9:28:55 AM