敷地内の駐輪場を囲う垣根辺りからゼンマイが巻き戻るような、けたたましい虫の音が響き渡っている。
昨今は朝夜の寒暖差が激しくて季節感に乏しかったが、いつの間にやらどっしりと春が訪れているのだと実感した。
スーパーでぎっしり詰めた買物袋を肩にかけ、エントランスに向かう。
日差しが強い。
緩やかな暖かさになごむ間もなく、額にうっすらと汗が浮いて顔をしかめた。
唐突に喉の乾きを覚える。
何か、冷たい物が飲みたいな。
冷蔵庫の中を思い出す。
常備している、晩酌用の無糖の炭酸水がある。
そしてキッチンには、愛飲しているピーチティーのティーパックも。
そうだ! 買い出し品を片付ける前に、ピーチティーの炭酸割りを飲もう。
ほのかな甘さと炭酸の涼やかさを想像して、肩の荷物の重さも気にせず軽やかに足を運ぶ。
鍵を開け、手洗いうがいを済ませて。
まずはお茶を入れて。
冷たすぎるのも体によくないよね、なんて呟きつつ、冷蔵庫の炭酸ペットボトルに手を伸ばす。
——ガッ!
1リットルペットボトルの予想外の軽さに、持ち上げた手が上部の棚にぶち当たる。
「痛っ、たぁ……」
えぇ? とペットボトルを見やれば。
残量は、底のくぼみに僅かに残るのみ。
「……あンの、野郎……!」
ギリッと奥歯を噛みこする。
漫画だったら青筋も立って、怒りのオーラが炎のように燃え立っているに違いない。
どうしてこう、何度言っても伝わらないのか。
残量にして多く見積もっても50mlもない、空に等しいようなペットボトルを、なぜに冷蔵庫に戻すのか。
飲みきって捨てて新しいペットボトルを補充しろよ!!
基本、オマエが飲むモンだろーが!!
……期待した飲料が飲めないことに苛ついて、胸底で毒づく。
冷凍庫を探り。
これまたロックアイスの名残というに相応しい氷の粒をグラスにふりかけ、袋をシンクに投げ捨てる。
これでは到底、あつあつのお茶は冷やせない。
溜息が落ちる。
片付けるのが面倒なのか。
そんな面倒事を、好きだという相手に平然と押し付ける無神経さは何なのか。
「——こういう些細なことから、愛はすり減っていくのよねぇ……」
耐熱グラスに注がれた熱いお茶の湯気を口息で吹き飛ばし、煮え湯めいたお茶を飲み込む。
気に入っていたはずの、ほのかなお茶の甘さが。
やけに鬱陶しく、感じた——
4/15/2024, 8:12:41 PM